第3幕 シャルロッテ
ルシアから少し離れた場所でも、金髪の少女が一人、また一人と敵を斬り伏せていた。
「……」
氷のような一閃で、確実に仕留めていくその少女こそ、第一騎士団副長・シャルロッテだった。
「確かに数は多いですけれど…それでも…」
西側の第一騎士団が相手にしている敵兵の数は、せいぜい三百程度。
「とすると、北側は……」
ちょうどそこへ早馬に乗った伝令が駆けつけ、シャルロッテに状況を報告する。
「やはり…早くルシアさんに知らせないと…」
シャルロッテはルシアのもとへと急いだ。
「……」
ルシアの周りが不意に静かになる。周囲には死体が散在していた。
「ルシアさん!」
そこに現れたのはシャルロッテだった。
「…………」
「ルシア…さん…?」
ルシアの凄まじい殺気にゾクリと背筋を冷やすシャルロッテ。その先の言葉が続かなかった。
「……ここの状況は?」
ルシアがシャルロッテに気づいて目を向ける。シャルロッテは金縛りが解けたようにルシアに報告する。
「敵味方とも兵数およそ百五十。敵兵の方が若干多いものの、騎士を中心に統制もとれてきており、現在はこちらが優勢です。西を突破されることはまずないでしょう」
冷静に状況を伝えていくシャルロッテ。
「ヘンリエッタさんは?」
「中央広場で全体の指揮を執っています。前線の指揮はルシア・リムネッタ両将軍が執るように、とのことです」
間を置かずにシャルロッテは続ける。
「国民は東の城方面へ誘導しています。北か西の防衛ラインを突破されなければ、あとはお姉様が対処してくださるそうです」
「……」
ルシアは黙ってシャルロッテの報告を聞く。
「しかし、敵の主力部隊が北方面から攻めてきています。その数、推定で五百。第二騎士団はこのままだと確実に全滅します」
私情を挟まずにシャルロッテが告げる。
「第二騎士団が、全滅…?」
ルシアが問い返す。
「り、リムネッタは!?」
「北はまだ突破されてはいないので、無事だと信じるしかありません」
「……」
ルシアは呆然とする。
「北面への増援はどうしますか?」
状況的に西も北も突破されるわけにはいかない。北面への増援は必須だった。
「……」
ルシアは考えこむ。頭の中が真っ白になってしまっていた。
「ルシアさん…」
静かに目を閉じると、そっと自分の手をルシアの胸元に置くシャルロッテ。
「私達第一騎士団は皆、ルシアさんを信じています」
「シャルロッテ…」
「私達のブルーメ国…今、この国を守れるのは私達だけなんです」
シャルロッテは静かに目を開くと、ルシアを正面から見つめる。
「ルシアさんが国を守り切ってくれるのであれば、この命も惜しくはありません」
騎士団長という重圧がルシアにのしかかる。自分の判断に国の、騎士団みんなの未来がかかっているのだ。
「…援軍を率いて、私も北へ向かう。シャルロッテには私に代わってこの場の指揮を任せたい」
「!!」
ルシアが決断する。シャルロッテは驚いて何か言いたげだったが、すぐに切り替える。
「…了解しました」
「シャルロッテ、どれくらいなら援軍に回せる?」
「…三分の一が限界です」
現在西方面は優位に立ちつつあるけれど、援軍を送り過ぎると西が全滅することになりかねない。
「それじゃあ足りない…」
ルシアはシャルロッテの両肩を掴む。
「半分…今の半分でここを死守して」
「半分、ですか…」
考えこむシャルロッテを、ルシアは正面から見据える。
「…分かりました。やってみせましょう」
胸に右手を添えると、シャルロッテは静かに目を閉じる。
「北はこちら以上に深刻な状況でしょうし…半数でも、ここは必ず守り切ってみせます」
シャルロッテは右手を大きく掲げると、声高々と各騎士へと指示を出す。兵士達は迅速にその指示に従って動く。
「ルシアさん、早馬があります。急いでください」
「ありがとう、シャルロッテ」
シャルロッテはルシアをじっと見つめる。
「ルシアさん…生きて帰ってきてくださいね…」
「もちろん。シャルロッテもね」
「はい、必ず」
ルシアは馬にまたがり、手綱をぎゅっと握り締める。
「はぁっ!」
ルシアが手綱を引くと、馬は勢い良く走り出した。
「……」
すっと目を閉じるシャルロッテ。水面に静かに降り立つイメージを頭に描き、極限まで集中する。
「参ります」
目を見開くと、シャルロッテは一瞬で敵の密集地帯へと斬りこんでいった。
ブルーメ国の兵士は第一、第二それぞれ二百程度。それに対して実際のところ、シュネー国は西に三百、北へ六百の兵を送っていた。北は事前の情報よりもさらに多い兵が送り込まれていることになる。ブルーメ騎士団は、個々の力ならどの国の兵にも負けない訓練を施されている。とは言っても、その数の差は大きかった。
ルシアのいる第一騎士団は善戦しており、百四十まで兵を減らすも敵の戦力を百六十まで削り、ほぼ互角の戦果を上げていた。しかし、八十の増援を送ったことにより、兵数は六十まで減った。
対して北側は二百の戦力を六十まで削られ、敵兵は五百も残っていた。増援が増えてもせいぜい百五十人。五百の兵の前では絶望的な状況に変わりはなかった。
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