第2幕 ヘンリエッタ

……やられたわ……

 早馬に乗り、苦い表情で城から出ていく女性。ヘンリエッタだ。後ろから二人の騎士がヘンリエッタの後を追う。

……まさか、このタイミングで……

 全く想定していなかったわけではない。しかし、可能性としては低いと踏んでいた。

……今考えても仕方ないわ。今はこの状況をどう乗り切るか……

 中央広場にたどり着くと、ヘンリエッタは馬から降りる。人々は城の方向へ向かっていた。

「ヘンリエッタさま!」

 騎士と思われる少女がヘンリエッタ達を見つけて声をかける。

「状況をお願い」

 ヘンリエッタが言うと、少女はこくりと頷き、ルシアが西へ、リムネッタが北へ向かったことを説明する。

「敵の人数は?」

「西に三百ほど。北は不明ですが、西より多いことは確かです」

 ヘンリエッタは小さく頷く。東には要塞があり、南は海に面している。敵が攻められるのは西か北だけだった。事前の情報を信じるならば、北の森に五百ほどの兵がいることになる。とてもではないが騎士団一つで相手をできる人数ではない。

「私はこの二人と一緒に残って、避難の誘導、情報の中継、敵の迎撃を行うわ」

 ヘンリエッタが引き連れていたのは国王直属の騎士だった。その実力は折り紙つきだ。

「西も北も突破されるわけにはいかないわ。北へ援軍を送るようにルシアあるいはシャルロッテに伝えて。人数は彼女達に任せるわ」

 ヘンリエッタはてきぱきと指示を出していく。

「敵の一部がここへ辿り着いたとしても、十数人程度なら私達で対処します。この馬を使って急いで」

「分かりました!」

 少女はヘンリエッタが乗ってきた早馬に乗り込むと、西へと向かっていった。

「…あなたたち、ここが最終防衛ラインよ。ここから先は、一人たりとも敵を通さないつもりでね」

「はい!」

 二人が返事をして気合を入れる。

……ルシア……シャルロッテ……頼んだわよ……

 ヘンリエッタは燃える西の空を見上げた。

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