第5幕 再会
その後のひと月もあっという間だった。ルシアとリムネッタは十六歳になり、二人揃って騎士団長に任命された。任命式は国王の間でつつが無く執り行われ、国王から直接任命された。
「うふふ、ルシア将軍♪」
任命式の帰り、ルシアとリムネッタは二人で城の中を歩いていた。
「リムネッタ、それは気恥ずかしいってば」
苦笑交じりにルシアが言うと、リムネッタは再び小さく笑う。
「これからまた大変だけど…一緒に頑張ろうね」
「もちろん!」
ルシアとリムネッタは途中まで雑談しながら一緒に歩き、その後各々の新しい部屋へと向かったのだった。
ルシアは昨日までヘンリエッタが使っていた部屋の前で立ち止まる。ヘンリエッタは、騎士の任を解かれた後も城に残り、国王の側で軍師として働くことになっていた。
「これから、頑張らないと」
そう言ってルシアは部屋の中に入る。部屋の引き継ぎはもう終わっていて、ルシアの私物も部屋の中に持ち込んであった。
「これから、シャルロッテが来ることになってたはずだけど…」
窓の近くに移動しながらつぶやく。シャルロッテ──ヘンリエッタの妹であり、ルシアと同じく、十五歳にして騎士になると同時に第一騎士団の副団長に抜擢された才女だった。
「ヘンリエッタさんの妹か…どんな子なんだろ…」
椅子に腰を下ろし、ぼんやりと外を見ながらそんなことを考える。晴れた空の下、兵士たちが何人か集まって訓練をしているのが見えた。
「うん、シャルロッテが来るまで、あの訓練に混ぜてもらおうかな」
そうルシアが言って立ち上がろうとした時、トントントン、とノックの音が聞こえてきた。
「どちら様?」
「シャルロッテ・フォン・リューブルクです」
よく通る凛とした返事が聞こえてくる。
「シャルロッテ? どうぞ」
「失礼します」
丁寧にドアが開き、一人の少女が部屋に入ってくる。
「あっ…!」
一目見ただけで思い出す。去年のパレードの日の夜に見かけた、不思議な少女だった。
「貴女は…綺麗な月のお方…」
「えっ…?」
ぽーっとした瞳で見つめてくるシャルロッテに、ルシアは思わず聞き返してしまった。
「いえ、何でもありません」
すぐに体裁を整え、澄ました顔をする。
(ヘンリエッタが言ってたことって…確かに、ちょっと変わってるかも)
「くすっ」
ルシアは思わず笑みをこぼす。とても綺麗で、とても上品で…ちょっとだけ夢見るロマンチストな…そんな素敵な子なんだと思った。
「ルシア将軍、どうかなされました?」
「二人だけの時は将軍、なんてつけなくてもいいよ」
「えっ、でも…」
「さんづけで構わないから。キミのお姉さんには、最初にそう言われたよ」
「あら、お姉様に…」
シャルロッテも、姉であるヘンリエッタからルシアのことは聞いていた。ルシアの口から姉の話題が出て、気持ちが少しリラックスする。自分が補佐する騎士団長はどんな人なんだろう、と少し不安もあったが、あの夜の人だと分かって、心から嬉しかった。
「とりあえず、中に入って?」
「はい、失礼します」
丁寧にドアを閉めると、一歩部屋に踏み込む。
「改めまして…この度、ルシア将軍の補佐としてブルーメ第一騎士団副長を務めさせていただきます、シャルロッテ・フォン・リューブルクと申します」
シャルロッテが丁寧にお辞儀をすると、金色の長い髪がふんわりと頭の動きを追った。
「わたしは…本日付けでブルーメ第一騎士団長に任命されました、ルシア・イルバスターです。硬い挨拶はこれくらいにして…よろしくね、シャルロッテ」
ルシアはすっと手を差し伸べる。シャルロッテは丁寧にその手を取ると、少しだけ頬をほころばせた。
「はい、よろしくお願いします、ルシアしょ…ルシアさん」
それは無表情に見えた少女に僅かだけ垣間見えた、歳相応の可愛らしい笑顔だった。
それが、ルシアとシャルロッテの再会だった。パレードの日のことはお互いそっと胸の奥にしまい、騎士団長と副長として、二人は新たな関係をスタートしたのだった。
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