第6幕 約束

 夕暮れの丘に冷たい風が吹く。あの事件の翌日、ルシアとリムネッタは、再び丘に来ていた。しばらく言葉も無く、二人で岩に座って雲を眺める。

 人の死に触れるのは、二人ともこれが初めてでは無かった。二人にとって死は、想像の範疇を超えているものであったけれど、厳然として目の前にある、逃れようの無い現実だった。

「どうして、争いって無くならないんだろうね…」

 口を開いたのは、ルシアだった。

「奥さんも…子どもだって、いたのに…」

 リムネッタもぽつりとつぶやく。二人とも、想像したのは、もし自分の父親が死んでしまったら…ということだった。そして、あの男にも妻や子供がいたんだと考えると、やるせない気持ちになったのだった。

「ほんの少しでもいいから、平穏に暮らす人たちの幸せを、この手で守りたいよ…」

 ルシアは、ぎゅっと握り拳に力を入れる。あの男が持っていた手紙…そこには、シュネー国との事の顛末が書かれていた。そして次の侵略先候補として、このブルーメ国の名前が記されていたのだった。

「わたし、絶対、騎士になるよ」

 遠い地平線を見ながら、ルシアは続ける。

「誰よりも強い騎士になって…争いで悲しむ人を、一人でも救えるようになりたい…」

 リムネッタも、うん、と頷いた。ルシアはリムネッタに向き直って語りかける。

「ねぇ、リムネッタ…もう一度、約束しよう? 二人で騎士になるって…」

 ルシアの瞳に、リムネッタの姿が映る。揺るぎない決意のこもった瞳だった。

「うん…約束」

 リムネッタも、強く決意を固める。騎士になるには圧倒的に足りないことだらけだったけれど、ルシアと一緒に騎士になるという夢が、現実的で大きな目標になった瞬間だった。

「二人で騎士になる、その日まで…絶対に、めげないから…絶対に、諦めないから…」

 ルシアの強い言葉は、リムネッタの心に深く余韻を残したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る