14.集中とイレ込みの間で

 3月最終週・日曜日、阪神競馬場第11レース

 G1・大阪杯 芝2000メートル

 

 1番人気  6番  スリーオクロック  横浜(徳)

 2番人気  4番  ファストストーリー 川原

 3番人気  12番 フォアローゼス   滝登

 6番人気  2番  サウザントマイルズ 和賀

 9番人気  10番 ダイロクテンマオウ 横浜(優)

 12番人気  9番  ジオウハチマン   加賀


《名手・和賀と共に39戦。旅路の果てに今度こそ悲願のG1制覇なるか、サウザントマイルズと和賀 竜介わが りゅうすけ! 》


《昨年春は皐月賞さつきしょうに続いて鞍上に初のダービー制覇をもたらしたこの馬が、今年の春はどんな物語を紡ぐのか!? 本日の2番人気・ファストストーリーと川原 優雅かわはら ゆうが! 》


《そしてこの馬が本日の1番人気、昨年はジャパンカップに夏冬グランプリ連覇とG1を3勝の現役最強馬、スリーオクロックと東のレジェンド・横浜 徳幸よこはま のりゆき! 》


《東にレジェンド・横浜騎手が居れば、西にはこのレジェンド騎手が居ます。昨年の無敗3冠牝馬・フォアローゼスをエスコートするのは数々の勲章を手にした名手・滝 登たきのぼる!! 》


 パドックから地下馬道を抜けて本馬場へと移動すると、人気各馬の紹介アナウンスと共に地鳴りのような声援が鳴り響く。


 

 第一線級の馬たちが春の初戦に選んだ大阪杯、1番人気に支持されたのはあの塩田厩舎の所属馬で【現役最強】の呼び声が高いスリーオクロック。生産牧場は一流の名馬を多く生産する茶来ちゃらいファームで、馬主は競馬界では名の知らぬ者は居ない大馬主である相馬そうまグループ会長の相馬氏。鞍上は現役トップとも呼ばれている優馬の父だ。


 まさに現代日本競馬の粋を結集したともいえる盤石の布陣。それに挑む形で川原さんの馬は僅差で並ぶ2番人気となっていて、下馬評ではこの2頭の一騎打ちと言われていた。



 だけど、オレにとってはそんな事は全く関係ない。馬の実績と力では劣るとしても、出来る限りの手を尽くして1つでも高い着順を狙うだけだ。それだけが、オレ達を見下したような態度で挑発しに来た塩田へ、オレたちの考え方が間違っていないと証明する事になる。


「おーおー、気合入りまくってるやん加賀君。そーいうタイプに見えへんのに」


 返し馬を終えてゲート前でレース開始のファンファーレを待っていると、和賀さんが笑顔で声を掛けてきてくれた。和賀さんの馬は現在6番人気。とはいえそれなりの人気を集めている馬でG1へ出走するのだから、それなりの気負いや負けられない気持ちは持っているハズだ。なのに、下級の条件戦に期待の薄い馬で出る時と同じように気楽そうというか、ラフな印象だ。


「ええ、どうしても風穴を開けて鼻を明かしてやりたい人がいるんで」

「はは、そら頼もしいこっちゃ。でもな加賀君、今のソレは馬で言ったらのと一緒やで!

 

 負けられへんっていう気持ち、勝ちたいって気持ちは奥に持ったままで、ここぞという所まではそれを表に出さんのがプロの勝負師っちゅうモンよ。馬が闘志を剥き出しにしたその瞬間にこそ、そういうのを一気に解放させたったらええ。川原かて、そういう競馬しとるやろ?」


 そう言われて川原さんの方を見る。いざ競馬、それも最後の直線となるとまさに闘志の塊のような競馬をする川原さんだが、今は不気味なぐらい静かにレースまで神経を研ぎ澄ませているような感じだ。



「んー、なんちゅうのかな。サムライが極限まで間合いを測ってココぞという機を読んで刀を抜いて斬り払う……そういうイメージなんよ。伝わるかどうかは分からんし、まぁ俺は日本刀なんて持った事ないから知らんけど」


 和賀さんの例えは何となく分かるような分からない様な、そんな表現だ。でもその指摘で、今の自分はもっと上の人達から見たら『闘志を滾らせている』わけでは無くて『』でしかないという事だけは分かった。


「和賀さん、わかりました……いや、ちゃんと分かったかって言われたら微妙だけど、何となくは」


「ははは、それでええんや! 気張っていこ!! 」


 

 そしてG1のファンファーレと観衆の拍手喝采が鳴り響き、俺達は係員に促されてそれぞれのゼッケン番号のゲートへと誘導されていった。

 

 「春のG1大阪杯、順調に各馬ゲート入りを済ませています。あとは大外枠の2頭がゲートに収まれば準備完了というところ」


 オレとジオウハチマンのコンビもゲートに収まって目の前の扉が開かれるのを待つ。我の強いヤンチャな馬だと聞いていたからゲート入りも少しバタつくかと思っていたけれど、そこはさすがG1出走馬。オレなんかよりもずっと落ち着いてゲートの中で息を潜める。まさに『闘志を爆発させるべき瞬間に向けて力を溜めている』ような感じだ。


(迷ったり悩んだら馬に聞いたらええ。レースの最中じゃ唯一の相棒なんやから)


 和賀さんがそう言っていた事を思い出す。そうか。この馬の方がオレなんかよりよほど『重賞で極限の力を尽くした戦い方』を知っている。それをオレは、信じて堂々と乗ればいい。


「ジオウ、オレにお前の闘い方を教えてくれ。頼むぜ」


_________________

次回、いよいよ現役最強馬を決める戦い、G1大阪杯がスタートします!


 最近じゃリアルの競馬では【現役最強馬】は賞金的にもドバイターフに行っちゃって大阪杯は格が落ちるからリアルの競馬も大阪杯、もうちょい盛り上がって欲しいところ。


 応援、コメントなど気軽によろしくお願い致します。


 

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