怠け者お手伝いの関係

「何やっているんですか?」


三冊の本を腋に抱え、部室に戻ってきた姫宮が、開口一番に言った言葉がこれだった。その眼は、完全にダメ人間を見ているようだった。そんなダメ人間の俺らは、工具の名前でしりとりという斬新な縛りを自らにかし、当然ながら、序盤で詰まっている状況を姫宮に伝えると、呆れた表情とため息がプラスされた何やっているんですか?が返ってきた。今思えば確かになんやっているんだろう。


「チですか?チ~~?ありますか~?そんな工具?」


後輩に呆れられているとはつゆ知らず、吞気にそんなことを言いながら千歳は、足をバタバタさせている。三人掛けのソファーで、半分ずつと言いたいが、俺は、普通に座って、右のひじ掛けに持たれているのに対し、千歳は、二つと言わず俺の膝の上に足を持ってきて寝っ転がっている。思わず、ここが学校であるということを忘れそうなだらけ具合だった。だらけているのはいいが、足をばたつかせるな。痛くはないがやめろ。そしてだが


「千歳が分からないのを俺が知っているわけがないだろう」

「え~?私の弟子じゃないですか」

「お前の弟子になった覚えはない」


俺がそう反論すると


「なら睦月君を私の弟子に任命しますよ~。仕事は、私とゆっくりして作業を手伝うことですよ~」

「作業は、お断りだ馬鹿野郎」

「そう言いながら、なんだかんだ手伝ってくれるじゃないですか~。素直じゃないですね~」


そう言いながら足のつま先で、脇腹をちょんちょんと押してくる。脇腹が弱いというわけではないが少しくすぐったいしそれに鬱陶しい。千歳が、ものすごくいい笑顔なのが腹が立つ。俺は、お返しに足を持ってくすぐり…と行きたかったが流石に問題があるかと思い、代わりに親指の爪の根元を思いっきり押した。


「ちょ、睦月君それに痛いですよ!」


自由な左足で俺の膝を叩くがそこまで痛くない。


「それは、よかった。痛くしてるしな」

「非道!冷血漢!え~と…お前母ちゃんでべそ!」

「もっと他に言いようがあっただろ」


なやんだ末に、お前の母ちゃんでべそが出てくるのはある意味すごいが。なんて考えていたらだんだんと膝が痛くなってきたし、掴んでいる親指もきつくなってきたら離してやった。


「わかったなら俺に作業手伝わせるのはやめろよ」

「それは、無理ですね~」

「千歳は、欲しがりだな」


俺は、さっきと同じ爪をつまむ動作をすると、俺の膝からサッと足を引き、出来るだけ精進しますよ~といつもの間の抜けただらけえた声で言った。これほど信用できない言葉はない。思わずアホ毛を掴んでやろうとしたが、一度、走られると追いつけない。副部長との鬼ごっこのおかげで逃げ足だけはかなわないから諦めた。


「そう言えば、姫宮さんが今持っているのは脚本の資料ですか?」


これ以上の追及を逃れるためか思いっきり話をそらしたな。


「まあ、そうですけど」


そう言って姫宮は、わきに抱えていた三冊を俺たちに見せる。


「黒魔術入門、西洋史大全、西洋貴族の華麗なる日常」


俺が姫宮が抱えている本のタイトルを読み上げる。


「…脚本の資料?」


思わず千歳がつぶやいてこっちを見るのも無理はない。書く小説の内容によるがその資料の本のタイトルが変になるのはよくある。文芸部の部室を見れば、それがよくわかるだろう。哲学書があると思えば、スクール水着の歴史とかいう頭のおかしい本のまである。嫌な慣れだが今更、黒魔術程度で驚きはしない。


「それで何書くか決まったのか?」

「え?黒魔術はスルーなんですか?ねえ?スルーですか?」


起き上がった千歳がバシバシと俺の肩を叩くが今度は口に出して言ってやった。慣れだ。


「話の方向は、決まって今資料集め中です」

「そうか。順調そうなら何より」


資料についてのスルーがまだ不満だったのかさっきまで肩を叩いていた千歳は、もう疲れたのか呆れめたようだった。


「姫宮さんは、どんなのやるんです?」


変わりに姫宮の書く脚本の話になった。


「まだ秘密です」


姫宮はそう言って借りてきた本に目を通し始める。


「睦月君は知っているんですか?」

「まあ…」

「私にコッソリ教えてくださいよ」


そう言いながらグイっと体と顔を近づけてくる。だらしがなかろうが、怠け者だろうが女の子らしく何やらいい匂いがする。決して俺は、匂いフェチとかではないが香乃とは違ういい匂いだ。だが、これ以上近づいているとクラスメイトの巨乳スキーやロリコンと同じ変態の汚名が張られる可能性があるため、ゆっくり引きながら姫宮の方に向いていた。本を読んでいるかと思いきや、こっちを見て絶対に言うなよと言う感じの視線を感じたのでお口をチャックしておく。


「断る」

「え~」


教えてくださいよと言いながら俺の体を左右に揺さぶるが、教えないものは教えない。


「帰るから手を離せ」

「え~、帰るんですか?もう少しいましょうよ」

「今日は、スーパーの特売だ」


今日は、野菜を買い足さねば。最近値段は安定してきても、安いのが一番だ。


「主夫みたいですね」

「一人暮らしだからな。ある意味主夫か?」


洗濯、掃除、炊事はひととうり自分でやっているから間違ってはいないはず。


「私も一人暮らしは憧れますね~」

「部屋がごみ屋敷になるからやめろ」

「そういう時は睦月君を呼んで掃除してもらいましょう!」

「断固却下だ」


何でそうなる。と帰る前に


「姫宮、傘ありがとな」

「どういたしまして」

「昨日は傘大丈夫だったか?」

「ちゃんと椿と一緒にに帰りましたよ」

「なら良かった。んじゃ脚本頑張れよ~」


そう言って俺は、演劇部を後にした。ちなみに野菜が安くて嬉しかったのは他の奥さん方も一緒だと思う。







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