師匠と弟子的な関係
四月も後半に入り、球技祭まで残り一週間とまで近づいている。そんなわけで体育の授業があった今日はやる気のある人へのご褒美なのか、残念ながら、朝の天気予報は全部晴れマーク。体育の授業は俺らやる気のない奴ら以外を除いて元気に行われた。その後も晴れマークは健気に仕事を続け余計なことに春にしてはやたらと熱くなっていた。それが五時間目まで続いていたのだが、五時間目の終わりになると、太陽がばてたのか若干空模様がが怪しくなり、時間が過ぎて六時間目の終わりになる今となっては、雨がザーザーと降っている。
運が悪い事に折り畳み傘は、家に置いてきてしまった。かといっていくら家が近いからって雨に濡れて帰るというのは選択肢にない。もうこの雨が通り雨だと信じて学校で雨宿りするしかないかと思ったところでチャイムが鳴った。委員長が号令をして挨拶をすると授業が終わると教科の先生が出ていくとの入れ替わりで担任の先生が入ってくる。特に連絡事項はないらしく、一分もかからないで、ホームルームが終わってしまった。こうなれば後は部活の時間。クラスの半分以上がさっさと教室を後にする中に珍しく日向と大内の姿があった。そう言えば今日体育の時に大内がコンペに出す作品にバグが見つかったとか、日向が新しく入ってきた後輩への布教活動阻止とか言っていたな。プログラミングはよくわからないけど、いつもは休み時間に俺らと話しているのに今日一日顔が死んでいたから相当なまずい事態なんだろう。日向に至っては・・・もう諦めた方がいいんじゃないかと思ってる。
つまり、特にこれといった用がない俺は、一人文芸部の部室で時間をつぶさないといけないわけだ。さて、そろそろ行こうかと思った時にスマホが震えた。めったに連絡の来ない俺のスマホなんだがいったい誰から連絡がきたのか見てみる。送り主は姫宮だった。内容をまとめると脚本作りを見てほしいらしい。思わず、ナイスタイミングと言いそうになった。俺は、文芸部の部室に来るように返信を返すと、教室を後にした。
●●●
俺が、部室に付いた時には姫宮は、ドアの前で待っていた。
「急に呼んですいません」
姫宮姫宮は、俺を見るとそう言ってた。俺は、丁度暇だったからいいよと答えて、カバンから出しておいた鍵で部室の鍵を開ける。中に入って、カバンを置き、腰をおろすとちゃぶ台の前に腰をおろすと正面に姫宮が座った。姫宮は、鞄から小さい白色のノートパソコンを取り出すと少し操作をし、俺の方にパソコンを見せた。開いていたのはメモ帳で、色々と書き込まれていたものの、話にはなっていなかった。要するに相談ていうのは恐らく
「どんな話を書けばいいかまとまらないのか?」
俺がそう聞くと、姫宮は頷いた。あーうん。どうしようかな。元になるのベースはあるんだし行けそうな気がするけど。ああ、それとだ。
「メモ書きとかネタを書くときは、パソコンじゃなくて紙に書いた方がいいかもね」
パソコンなんて堂々と教室で開いたら盗まれる。それに授業中に開いていても違和感がないという便利なものだ。まあ、うっかり学校でなくした日には…なんて想像ししたくない。頭の中がネタ帳なんていう人もいるかもしれないが、俺には無理だ。書いた方がしっくりくるし小説を書いている気分になる。
「そうですよね。いつもパソコンを持ち歩くのは流石に無理です」
姫宮は、そう言ってい頷くと帰りに買ってこようと呟く。俺はメモ帳替わりにコピー用紙を姫宮に渡す。姫宮が筆箱からシャーペンを出すのを見てからまた話を再開する。
「姫宮は、どんな劇をやってみたいんだ?」
俺がそう言うと、姫宮は、少し言いにくそうに恋愛劇と言った。知り合って数日だけど、姫宮から恋愛という単語が出てくるのが意外だった。いや、俺も人のこと言えないけどさ。ラブコメとかコメディを書いたりしてるし。でもこうなんか姫宮は推理ものを好みそうな感じがある。恋愛劇か。
「恋愛劇だと多いのが身分違いの恋とか、そういうのが多いんだよね。でも、そういうのもいいけどたまには、ドロドロの愛憎劇とか書きたくなってくるんだよね」
まあ、演劇部の先輩に見せた段階で没になったんだよね。文芸部の先輩は、読んでいるとき、超ハイテンションで、読んで嬉々として劇にしようとか言ってたけど、演劇部の人にギリギリアウトって言われたんだよな。その時ちょうど二学期の期末試験の終わりで学校全体が早く来いクリスマスみたいな雰囲気だったからついイライラして書いやつなんだよな。うん、今にして思えば先輩も俺も疲れてたのか・・。
「あの嫌にリアルな脚本、先輩が書いたんですか」
「あれ?混ざってた?ボツは抜いたはずなんだけど」
「ボツだったから作者名がなかんたんですね。先輩。あれは、ホラーです、始めは、主人公と幼馴染の女の子とそれを応援するクラスメイトの女の子で、じれじれの恋愛劇を予想したんですけど、途中からクラスメイトが入ってそこから阿鼻叫喚の地獄絵図。わたし、夜に読んだこと、後悔しました」
「ああ、ちょっとしたストレス発散のつもりが気がついたら無駄に研究してたんだよね。よくある友達の恋の応援していたら自分もその人を好きになるっていうのあるでしょ。その後って大抵、応援されていた人が好きになるのは仕方ないよみたいになって、負けないよ的な感じだけさ。そこを変えたら面白そうって思ったんだよね」
「そうです、その部分です。そこまで楽しく読んでいたのに…」
そう、ここから前半とは一気に変わる。始めは、天使のような笑顔を浮かべていた幼馴染が裏で、クラスメイトの悪いうわさを流し、クラスメイトも対抗して噂を流す。やられたらやり返す。血で血を洗う女同士の戦い。渦中の主人公は後半は出番がなく、、蚊帳の外。途中からまさに存在感がないのだ。メインは女同士の戦いなんで。
「読者、観客の予想を裏切った時の反応が面白いんだよね。ストレス発散で書いたんだけどこれが劇になったらおもしろかったのに。ボツになったのが本当に痛い」
俺が、そう言うと、姫宮は無言で俺を見ている。あれは分かる。何書いているんだよって目だ。悪いことはしていなけど何となく罪悪感がこみ上げてくる。思わず目をそらして俺は、強引に話を変えに行った。
「取り敢えず、メモ書きから自分がどんな話を書きたいかをまとめてその後登場人物の人物相関図を書いたりしたりして詰めていくのがいいかもね。あとは物語の舞台になる年代の文化や衣装も頭に入れておいた方がいいよ。裏方の人にも自分のイメージが伝わりやすいし」
と姫宮の問題の解決策になりそうな回答を出した。姫宮は、未だにさっきのような目だったが、少し目を逸らして、間を開けてありがとうございますと言うとさっそく作業に入っていた。
パソコンとにらめっこし、紙に少しずつペンを走らせる。俺もこんな時があったなと懐かしみながら、俺もパソコンで脚本を作っていく。静かで穏やかな時間が流れていった。
●●●
「そう言えば、文芸部に入り浸っていていいの?」
俺は、唐突に思った。かれこれ一時間半はここにいる。演劇部はうちと違って毎日やっているから戻らなくてもいいのかと思った。
「大丈夫です。部長に文芸部に行ってきますとは言いましたから」
何かあれば、誰か来ると思いますと言うと再び机に向かおうとしたが
「あの…迷惑ですか?」
「いや、そう言う訳じゃないよ。今は帰ろうにも帰れないからね」
と雨が降っている外を指さす。
「もしかして傘忘れたんですか?」
「そう、最近雨が降らなかったからついうっかりね」
そう言うと、姫宮は、カバンをあさり始めると中から折り畳み傘を出した。
「使います?」
「いや、姫宮が濡れるでしょ」
「私は、椿に入れてもらうので大丈夫です」
そう言って、姫宮は俺に傘を渡そうとする。椿っていうのは確か筆箱を取りに来るときに一緒にいた子だよな。同じ演劇部だし…でもな。
「筆箱を拾ってもらったお返しです」
と折り畳み傘をちゃぶ台に置いて、荷物を鞄に纏めて出て行ってしまった。去り際に明日の放課後返してくださいと言うと、そのまま居なくなった。
「…意外と強引というか押しが強い」
折り畳み傘に飾りで付いている黒猫がちゃぶ台の上で俺を見ていた。
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