書き手と書き手の関係

奥奈先輩の言うとおり、部室には多くの人がいた。文芸部の部室の五、六倍くらいある広い部室もほとんど埋まっている。見ない顔が結構あり、そんな人たちは俺を誰だこいつみたいな感じで見ている。視線が痛いです。


「はい、それじゃあ、みんな座ってね~」


その一言で全員が素早く座る。奥菜先輩が怖いのか演劇部の性質なのか・・。謎はあるが。というか脚本志望の顔見せなのにどうして全員なの?


「奥菜先輩。なんできれいに全学年揃ってるんですか?」

「結局、みんなにお披露目するんだし一気にやった方が効率がいいでしょ?」

「お披露目って・・・」


まあ、盆と正月が一緒に来たような感じって意味が分かるようなわからないような例えだが結論は諦めるだ。


「三年、二年は知っているが一年は知らないから紹介しておく。演劇部の脚本を書いてくれる文芸部の睦月鳴海だ」


そう言って海堂先輩が俺を紹介する。俺は、軽く頭を下げるとこの人がという声が聞こえる。


「それじゃあ、和幸と姫宮はこいつについて行って文学部室に行ってくれ」

「は?聞いてないんですけど」

「あ、すまん言い忘れてた」


この天然め。


「はあ。連絡事項はしっかりしてくださいよ」

「ごめんね睦月ちゃん。わたしからもしっかり言っておくから二人をよろしくね」


奥奈先輩は進行を他の人に任せ海堂先輩を連れどこかに消えた。合掌。


取りあえずこっちもやることやりますか。


「それじゃあ、和幸と姫宮ついてきて」



●●●


俺はいつもどうりに部室に向かっているが………。空気が重い。まあ、いきなりぽっと出の先輩についてきているんだし当然なんだけどさ。


「ここが文芸部室だよ」


俺はドアを開けて内履きを脱いでいつもの場所に座る。二人には適当に座って貰った。


「改めて始めまして。文芸部部長の睦月鳴海です。取り敢えず自己紹介してもらってもいいかな」


俺がそう言うと、二人は一回目を合わせると、少し話をしている。決まったのか左にいる子から話し始めた。長く綺麗な黒髪で身長は悔しいながら俺より少し高いくらいの子だ。綺麗という言葉がしっくりきて、舞台映えする容姿だ。しかしながら近寄りがたい雰囲気はなくやわらかい印象だ。恐らく海堂先輩のことだから役者側に誘っているだろう。


「一年Aの和幸涼音です。元々趣味は少し小説を書いていたんですけど部活紹介で演劇部の脚本に興味を持ったんです」


見た目道理、喋り方はやわらかいし丁寧だ。しかし、今の入部動機を聞く限り演劇部さえなければうちに入ったんじゃないか?惜しいことをした。来年は少し真面目に勧誘をしようかと考えたがそれはいったん横に置いておいて次の子に促す。次の子は髪がロングとショートの中間くらい、具体的には肩からさらに五、六センチくらいで右側を結んでサイドテールにしている。可愛いと表現してもいいがなんか怒っているように感じるのはなぜだろうか。うん、気にしない方向で


「姫宮葵。中学三の時に演劇を見て脚本に興味をもちました。でも素人です」


・・・シンプルかつ分かりやすい自己紹介だった。しっかりとこっちを見てなんとなく強さを感じる。未経験者ということはあの話し合いも無駄ではなかったようだ。姫宮も俺を見て俺もますっぐ見返しているからにらみ合っているように感じてるのか和幸は落ち着きがなくそわそわしていた俺は、それにやっと気づいてた。


「よし」


一先ずこの空気を飛ばすためなれないながら喋り倒すことにした。とは言っても内容は今後のことだが


「二人には中間テスト開けの次の週までに脚本を一本仕上げてもらおうと思う」


俺がそう言うと対照的な反応が得られた。和幸は、嬉しさが出て、姫宮はさっきとは変わって少し不安げな様子だったと思う。


「もちろん、書き方は教える。脚本についての本もあるしね」


そう言って俺は目線を棚に向ける。そうすると二人も目線を変えた。


「あれって全部演劇関係の本なんですか?」


和幸がそう聞いてくる。


「全部じゃないよ。小説書くための資料もあるし」


俺は、よっコラショと口には出してないがそんな気分で立ち上がると本棚に近づいて、西洋文化に関して書いている本を取り出して机の上に置く。丁度これは廃棄される予定だった本で役に立つかもしれないと貰ったのだ。割と重宝している。


「それならこれも?」


姫宮が手にしていたのは女性向けのはファッション誌だった。視線が完全に変質者を見る目だった。別にそれを見てハスハスしていたわけでわなくちゃんとした理由がある。いやむしろなければ俺は、変態さんだ。服装を文章で表すのって意外と難しい。そもそも男なんだし女性ものなんてわかるわけがない。更にファッションそのものに興味が薄い。だからこそ本屋の店員さんの疑惑の目を気にしつつ買っているのだ。こんな感じの説明をしたら、こいつ変態だって感じで見ていた姫宮は、横で共感していた和幸に納得してかその疑惑の視線はなくなっていた。ありがとう。和幸、感謝だ。


「さて、資料についてはそれで良しとして。和幸と姫宮はパソコン持ってる?」


和幸は恐らく持っているはず。スマホで書こうと思えばできる。でも、長時間やっていると指が釣りそうな感覚がするのだ。


「わたしは自分のを持ってます」

「私は自分のは無いけど家に一台」


二人はそう答える。なら、問題ない。俺は、少し待っててと言って近くにあるノートパソコンを起動させる。ちなみにだが学校のは白で、俺のは黒だ。というのは余談で俺は、中にある歴代の先輩たちが残した脚本が入っている。恥かしながら俺の書いたのも含まれる。紙でも原本が残っているが文芸部にとっても大事なものなので原本を貸すわけにはいかない。よってUSBにコピーして二人にも渡すのだ。見本としては最高のお手本だろう。おれが一年の時に参考になった物をUSBに入れておく。ここで間違えても自分のは入れないことだ。時間にして数分。



「取り敢えずこのUSBに何本か参考になりそうなのを入れといたから」


そう言って二人に渡す。


「ここに睦月先輩のは入っているんですか?」

「いや、入れてないよ。流石に自分で自分のを見本て言って渡すのはどうかと思って」

「それならい入れて貰っていいですか。私、海堂先輩に睦月先輩が賞を貰ったことがあるって聞いて読んでみたかったんです」


素直に、笑顔でそんな感想を射言われると嬉しいし気分がいい。


「私のにもお願いします」


姫宮にもそう言われて少し驚いたが、顔には出さずにはいはいと軽い口調で答えてUSBに入れる。


「できたよ。あと、そのUSBはなくさないでね。文芸部の備品扱いだから」


なくしたら演劇部に請求がいくよと冗談を入れて二人に渡す。二人は大事そうに受け取ると和幸はポーチに、姫宮は、シンプルかつコンパクトな性能重視の筆箱を取り出して中に入れた。見事にUSBの保存場所が姫宮と被った。


「んで後は、取り敢えずこれとこれこれ」


と脚本の本を数冊渡し、後何かあったかと考える。うーん。そうだ連絡手段も必要か。


「これ俺のユーザー名だから何か聞きたいことあったらそこに連絡して」


と一般的になりつつある無料通話のtorque(トルク)の連絡先を教える。マメにも二人はメモに取ると、紙を一枚とり自分の連絡さきを教えてくれた。正直必要ないと思ったが押し切られた。今日はもうこれで終わりだから帰っていいよと伝え、ゆっくり考えなと一言言って終わった。


「ふう。なんか疲れたな。俺も帰るかな」


腕を伸ばしながら時計を見ると四時を回ろうとしていた。運動部なら今から本番なんだろうが文芸部の俺は、帰える時間だ。ささっと帰宅準備をおえいざ帰ろうとすると見覚えのある筆箱が。あれは姫宮のだったか。そのまんま忘れていった見たいだった。


「香乃の弁当といい、姫宮の筆箱といい俺は、忘れ物に愛されてるのか?」


そんな疑問を持ちつつ、連絡先を交換しといて助かったと思った。

















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