俺と幼馴染の関係
海堂先輩が、部室から去ったあと。俺はもくもくと演劇の脚本を書いていた。
演劇部には、Aチーム、Bチームと二つのチームがある。俺が今、演劇部から、引き受けてるのは、その両チームの脚本だ。Aチームのために、書いてるのが文化祭公演用、定期公演用、大会用の三つ。Bチームのために、書いているのが文化祭公演用、定期公演用の二つ。両方合わせて計五つ。しかし、脚本志望の一年生が入ってきたから、俺の負担も、軽くなるだろう。何せ文化祭で脚本をやり遂げ、先輩の引退を見送ったあとの大会、定期公演のコンボは、忙し過ぎて、部員勧誘をまともにしなかった先輩を恨んだ。今年も部員が集まらないから、また、地獄を味わうのかと思ったがそれが回避出来て良かった。
話を戻すと今、書いてるのは、さっき海堂先輩にせかされたAチームの文化祭用の脚本。ジャンルは、恋愛物語。海堂先輩という有名人がいるんだから、それを一番生かせる内容。つまり、恋愛ものがいい。まあ。始めは、たまには、知的にどうかと推理ものでも書くかなと思ったが結局は恋愛ものに落ち着いた。
作業はまあまあの進行具合に進み、気づくと夕暮れ時になっていた。
「はあ。もうこんな時間か」
いつもなら、授業終了と同時に帰るけど、今日はスーパーで買い物す予定だったから、部室で執筆しながら時間をつぶしていたのだ。思わぬ来客もあったけど。PCをシャットダウンさせ、放置していたカバンを取る。戸締りを確認して、お次にドアの鍵を閉める。廊下はひんやりとしていて、誰もいないからか、放課後の校舎は静かで、俺の足音が良く響く。昼間の校舎とは大違いで、簡単に非日常感を楽しめるから俺は、放課後の校舎が好きだったりする。しかしその時間はそこまで、長くない。下駄箱に近づくにつれ運動部の掛け声が聞こえ、徐々に日常に戻る。下駄箱で靴を履き替える。玄関を出るとさっきまでPCとにらめっこしていた眼が痛い。自転車置き場に行く途中では吹奏楽部の演奏が聞こえ、サッカー部がせっせと校舎の外周を走っている。その姿は夕暮れ時によく生えていた。
俺は、中学校の時から愛用している自転車にまたがり、スーパーに行く。自分の主食であるパンに合う具材を買い、家に帰る。
家は学校から徒歩十五分に在る五階建てのマンションの五階の角部屋。両親は、天文学者で今も海外を飛び回っている。だから今は、面倒な一人暮らししている。今の俺には、両親についていく気力がない。
マンションの自転車置き場に自転車を置き、エレベーターで五階へ。
カバンから鍵を取り出し、鍵を開けようと…
「開いてるな」
これが推理小説なら、中で人が死んでいる洒落にならない状況なんだが、これは、推理小説ではない。ちなみに。この場合、事件は始まる前に、犯人は分かっている。ドアを開けると、犯人のローファーが綺麗に揃えられていた。俺もそれに倣って靴を隣に綺麗に並べるとリビングに続く廊下を進み、リビングに出る。予想道理、犯人はキッチンで料理を作っていた。
「あ、なるくんお帰り。今日は部活だったの?」
犯人…幼馴染の篠宮香乃は吞気に制服にエプソンを身につけて、右手にさえばしを持っていた。海外出張中の両親に絶大な信頼を得ているのがお隣さんの篠宮家。付き合いは何と俺らが生まれてくる前かららしい。その娘である香乃も両親に娘のように可愛がられてる。ちなみに逆もしかりだ。そんな関係であるんため篠宮家というより香乃は家の合い鍵を持っているから、たまにこういうことがある。
「香乃の言うとうり冷蔵庫の中身が空になりそうだったからな。タイムセールまでの時間潰しに部室にいたんだよ」
「そっか~。だから冷蔵庫に何もなかったんだね。かっらっぽだったから家から色々持ってきたよ]
そう言って香乃はさえばしを置いて冷蔵庫の中あさり、これが肉じゃが、これは餃子で~と説明してくれる。その気遣いは嬉しい。香乃がご機嫌に話している間に味噌汁の面倒を見ることにする。具は豆腐にワカメと油揚げ、篠宮家の定番である。
「嬉しいけどそんな張り切って持ってこなくても大丈夫だよ」
「私が料理の練習にやってるからいいんだよ」
香乃は冷蔵庫を閉めて今日持ってきた物を取り出して机に並べていく。
「それに、私が料理を持ってこないといつもパンしか食べないからね~」
そう言って俺が持っていたさえばしを手に取って、キッチンに立った。機嫌がいいのか頭が左右に揺れて、それに合わせて、普段は、結んでないポニーテールの黒髪も揺れる。そう言えば子供の頃は触り心地がいいからとその綺麗な黒髪を昔はよく触らせて貰ったと昔を思い出した。こんな事をうちの学校の奴に知られたら、嫉妬の嵐だろう。そもそも香乃と俺が幼馴染である事を知っているのは少ない。ましてや、家が隣で、たまに料理を作ってくれるなんて知られたら血祭だろう。俺は、血の出るお話は、現実では勘弁して欲しい。現実は、平和がいい。俺は、取り敢えず、香乃のの手伝いをすることにした。味噌汁を作っていることはもうすぐ出来上がる合図だから皿でも出しておこう。
時刻は、六時半頃
俺がいる時本当にまれだがぽかをやらかすが香乃の料理はおいしい。今日の夕飯は、ご飯に麻婆豆腐、エビチリに味噌汁という和洋折衷ならぬ和中折衷だ。机の上に並べられた料理は普段の俺では考えられないラインナップだった。
「パン以外も食べないと駄目だよ?」
俺が小さい頃から香乃が家に来るたびに口を酸っぱく言う事だが、守れたためしはない。俺は、パンが好きだ。愛していると言ってもいい。基本的に朝も昼も夜もパンだ。パン好きのレベルが上がって自分で作るレベルだ。それでも幼馴染の言うことは、両親でも変えられなかった俺の食生活を少し変えた。家の冷蔵庫に野菜ジュースが入っている。ついでにサンドイッチの具は野菜を多めにしている。それが幼馴染の一言で変わった事だった。
「それじゃあいただきます」
俺と香乃は一緒に手を合わせると、俺はまず、エビチリに手を伸ばした。えびはプリプリしてるし辛さも丁度いい。少し残して、明日のサンドイッチの具に使うのもいいかもしれない。
「なるくん。エビチリ、少し多めに作っといたから明日のサンドイッチにはさむでしょ?」
香乃には、言わずとも俺の行動がわかるらしい。
「ん。相変わらずよくわかるな」
「それは、大体どんな好みかはわかっているから」
そう言うと香乃もエビチリを口に運んだ。まあ、それを言うなら俺も同じようなもんなんだが。
「香乃もいつもどうりパン持っていくだろ?クリームパンあるぞ?それともクロワッサンにするか?」
俺は、二択で出しておきながら香乃がどっちを選ぶのか分かっていた。
「なるくん。分かってて聞いてるでしょ?」
香乃が少し頬を膨らませていた。高校生としては子供ぽっい仕草だが香乃がやるとそんなのはどうでもいいほど合っている。
「いつもどうりクリームパン一択だろ」
俺がそう言うと香乃は勢い良く頷く。
「もちろんクリームパンを持って帰るよ!なるくんが作るのはおいしいからね!...でも、クロワッサンも捨てがたい」
そう言って香乃は麻婆豆腐を口に運ぶ。ピリ辛にピリ辛が重なって辛くなったのか若干涙目だ。なぜこの組み合わせにした。俺は、テーブルを離れ、冷蔵庫から牛乳を出してコップに入れる。ついでに自分の分と麦茶を入れる。
「ほい」
香乃の目の前に出すと両手で持ってコクコクと飲み始める。半分ほど飲み終わるとようやく落ち着いたにか、コップから口を離す。
「いやあ・・ありがとう。」
「香乃って辛いの大丈夫だろ?」
香乃は人差し指で口に少し付いた牛乳を拭って手拭きで拭いた後
「いつもは平気なんだけど・・。少し味付け間違えたかな?」
「見たところ間違いないし、エビチリがあったからじゃない?相乗効果で」
「なるほど」
納得したのかうんうんと頷くと
「なるくんは辛くない?」
「俺はちょうどいいくらいかな」
香乃はどこからかメモ帳をだし、何か書き込んでいる。俺も制服のポケットにネタ帳を入れているから特には驚かなかったが、さっきの会話の中でどこをメモするのだろう。少し椅子から腰を覗こうかと思ったがやっぱりやめた。前に香乃の家に夕飯を食べに行った時に、香乃が何か書いているのを見て、気になって後ろから覗こうとした時があってその時、滅茶苦茶怒られたからだ。俺が近づいているのが分かったのか、シュバっと俺の方を振り返り、顔を赤くして見えた?と恥ずかしそうに聞いた後、見てないと俺がいったらふうと一息ついた後、言葉の弾丸を何発も放ってきたからだ。始めは、乙女の秘密とか言い、最後の最後にはなるくんとは口きかないといわれ、二週間も口を聞いてもらなかったのだ。その間の俺は、筆がのらず、友人から廃人一歩手前と言われたくらいだ。最終的に香乃のお母さんがでて来て事なきをえた。お母さん様々だ。この騒動で得た教訓。
触らぬ神に祟りなし。俺は、テレビを付けた。
七時
夕飯を食べ終わり、二人でのんびりしていた。
「そう言えば香乃は今日部活なかったの?」
俺は、ソファーでクッションを抱きながらまさしくごろごろしている香乃を見た。制服のブレザーはシワになるといけないと思っているのか脱いで隅に綺麗にたたまれている。
「久しぶりにね。一年生も入ってき楽しくなってきたんだけど」
そう言ってクッションをもふってる。香乃は陸上の短距離走の選手だ。私、それなりに優秀なんだよと口癖のように言っていたが、実際に大会に応援に行って香乃を見ると信じられなかったがすごい速かった。しかも優勝していた。香乃の活躍が自分のことみたいに嬉しくて、表彰式が終わった後テンションが上がって香乃のところにに行った。俺は、ハイタッチでもしようかと思っていたのだが、あっちは俺以上にテンションが上がっていたんだろう。
思いっきり抱きつかれた。もちろん先輩にも同級生の目の前で。香乃は嬉し泣きして離してくれないし、この状況を楽しんでいるのか先輩も同級生もニヤニヤ見ているしで、始めての大会応援は恥かしい思い出となっている。
しかし
「後輩か~。文芸部は今年新入部員ゼロだよ」
「毎回思うけど良く廃部にならないね」
「一応実績だけはあるから」
そんなたわいもない会話が一時間ほど続く。内容は、学校のことや、今見ているテレビの話。香乃と一緒にいる時間は楽しくあっという間に香乃が帰る八時になる。
「よし、そろそろ帰ろう!」
「きおつけてなー」
靴をはいていた香乃は、つま先をトントンと鳴らして靴をちゃんとはくと
「すぐ隣でしょ」
その後、香乃は手に持っているクリームパンを上げて帰って行った。
家がシーンと静かになる。
香乃が来てくれるおかげで俺は、たまに来る寂しさから救われる。けどいつまでたってもこうはいかない。一回は離れてしまったけどまた会えた。でも次はどうなるかわからない。少なくとも近い未来また離れるかもしれない。
「はあ・・」
憂鬱な気分をため息とともに流す。いつまでたっても幼馴染の関係が続く訳がない。変わらない関係はない。それは、分かっている。今の関係が変わる事を恐れている。それも分かっている。でも、その関係が変わらない事を願うのは、別に悪いことではないはず。そう思って俺は、風呂に入るのだった。
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