第19章 きみのために罪を背負った理由

第32話

「霧島先輩が話していた運命の話って、私のことだったんですか?」

「そうです。何度も天界の目を盗んで、あなたの運命を変えようと足掻いてもみましたが、結局、あんな結末になってしまいました」 

 女神は何度、罪を犯しても彼が上手くいかないことが可笑しくて仕方がないようだった。彼女の様子にようやく、霧島は女神に騙されていたことを知る。

『われが憎いか、疎ましいか、智? けれど、われの憎しみはこんなものではない。救おうとした女はお前のせいで、さらに不幸になった! あはははっ、ざまぁみろ‼︎ お前がどんなにその女の運命を変えようとしたところで、所詮は決められた定めは覆せない‼︎』

 どうして、彼女が自分だけではなく、佐久夜も苦しめるのか。人の子の運命を変えようとしたことが上層部に気づかれない訳がなく、霧島は天界の武神たちに捕まえられ牢へと閉じ込められた。 

 暫く、謹慎させられていた霧島の元に天照大御神の眷属神である初音が訪れる。

『この度は大変、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした』

『よいよい。そなたもあやつに騙された被害者じゃ。天照大御神さまも怒ってはいない』

『騙された……? 僕がですか?』 

 初音から、霧島は真実を知らされる。

『さよう。お前を神に推薦した神は、かつて磐長家とお主の一族を呪った女じゃ。よう働いてくれた女神じゃったがまだ憎しみが燻っていたんじゃのう。今回の件で彼女には消えて貰うことにした』 

 消えるということは、今後、世界に生まれ変わることもなく、滅失させられるということだ。女神の罰がそれほどに重たいものなら、自分の罰はどれほど重いものかと霧島は思う。

『僕への罰は?』

『そなたに罰則はない』

『どうして、僕には罰則はないのですか? 分かっていて……彼女を助ける為に罪を犯したのに?』

『幼子に罪はないという天照大御神さまからのお言葉じゃ。今後も変わらずに、天界の為、働いて貰いたい』 

 天照大御神からしてみれば自分も幼子なのかと霧島は苦笑した。 

 その後、霧島は真面目に天界で働いていたが、下級神の中に佐久夜がいたことを知り、以前、失敗したことも異世界転生課の系統を使えば出来るのではないかと思い浮かぶ。

『こんにちは。あなたが異世界転生課の神ですか?』 

 神々の失敗で疲れ果てていた神を言葉で翻弄し、自分が後任となるべく、初音に自身を推挙した。

「どうして、そこまで」

「僕に優しくしてくれたから、じゃ理由になりませんか?」

「……それでも」 

 自分の為にそこまでする必要はないじゃないかと、佐久夜は思ってしまう。

「まぁ、ぼくの悪事もバレてしまいましたし。あとはお願い出来ますか?」

「……石上」

『うん』 

 佐久夜は系統に指示をする。 

『ごめんなさい! ごめんなさい‼︎』 

 心の中では謝りつつ、佐久夜は、自分の周りを浮遊している系統に表示されているアイテム欄から選択をした、【扇子】を取り出した。 

 この扇子を使って、佐久夜は試しに自分の頭を叩いてみたことがある。頭を叩いたときは痛くなかったため、叩かれた相手も同様だとは思うのだが……。

 佐久夜は〈憑依者〉の魂が口から出てくるように、遠慮がちに頭を叩いた。〈憑依者〉が倒れたと同時に自分の周囲を飛んでいる系統の表示が『おめでとう』と花火が打ち上げられた画像と共に表示されていることに安心して、佐久夜はその場に座りこんでしまう。

『まだまだ、油断は禁物だよ』 

 系統の中から自分を叱咤するような声が聞こえ、佐久夜は両手で扇子を握りしめた。 どうして、下級神の中でも下っ端から数えた方が早い自分がこんな大変な仕事をする羽目になったのかと天を見上げ、上司を恨みたくなってしまった。 

扇 子を見開くと、霧島の本名がそこには書かれている。 

 烏森智。 

 扇子を握りしめたあと、佐久夜は系統の中へと入れた。ようやく自分の任務が完了したことで、系統の帰還の文字をようやく、佐久夜は押すことが出来る。佐久夜は帰還の文字を指先で押すと目を瞑った。

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