第13章 アンネの懺悔
第23話
「リリアナさんには、なにも言わなくていいんですか?」
「ええ。これからは、私の代わりにアンネリーゼが彼女の傍にいてくれるもの」
人気のない場所を探して、佐久夜たちは学園内の教会へと訪れる。年代を感じさせる蔓が巻かれ古びた扉は叫び声のような音を立てて開かれた。
中心にそびえ立つこの世界で敬われる女神の像を見上げるアンネは佐久夜に声を掛ける。
「ねぇ、サクヤさん。ひとつだけ、私の懺悔を聞いてくれないかしら」
系統は相変わらず、静かに佐久夜の周りを回っている。佐久夜は霧島がなにも言わないことで頷いた。
「あのね。私の大切な人って、お姉さまなの」
「お姉さま……?」
女神に祈るように、アンネは両手の指を握りあわせると目を瞑る。彼女のお姉さまという言葉に、霧島は何故か反応をした。
『佐久夜さん。憑依者の言葉なんて聞く必要はありません』
佐久夜は霧島の言葉が届かなかったふりをして、アンネに話を続けるよう、そっと、彼女の肩に手をあてる。
アンネは佐久夜の行動に『ありがとう』と笑った。
「お姉さまはね。ばかな婚約者のせいで、自分のことがみにくいだなんて思わされていたの。私は当時、わがままな子だったから、ただ自分が幸せになれることしか考えられなかった。だから、自分のエゴのこともあって、アンネリーゼに同情したのかもしれないわ」
「……アンネさま。あなた、もしかして……私の」
アンネは佐久夜の唇を人差し指で留める。佐久夜がその名前は言ってはいけないように首を振った。
「過去、お姉さまとは、本当の姉妹にはなれなかったのだけど。この学園でリリアナや貴方と姉妹のような関係を持てて、楽しかったわ」
「……いいのね?」
「ええ。前とは違って、私に心残りなんてないもの」
佐久夜は系統の画面をいじって、〈アイテム〉の一覧から、〈扇子〉を取り出す。
アンネの頭に向け、顔を背けながらも閉じたままの扇子で叩きつけた。
『佐久夜さん、今です。扇子を広げてください』
人影に開いた扇子で仰ぐと、なにも描かれてはいない扇子の柄にひとりの見慣れた少女の絵が描かれた。
気絶してしまったアンネリーゼを、佐久夜は並べられている長椅子へと寝かせる。
『佐久夜さん。魂を回収します。任務、お疲れさまでした』
「霧島先輩。どうして、アンネさまの言葉をとめようとしたんですか?」
『必要ないと思ったから、ですよ』
「……そうですか。あの、どうやって、天界に戻ればいいんでしょうか?」
『系統の〈帰還〉を押してください。そうすれば、天界に戻れます』
霧島の言葉に嘘を感じ取りながらも、佐久夜は系統の〈帰還〉ボタンを押す。
佐久夜がボタンを押したことで警告音が響きわたり、系統の画面は黒く、赤い文字で『不可』という文字が何重にも流れる。
系統が壊れたような反応に、佐久夜の顔は青く染まっていく。
佐久夜がサイモンを叩いたことで、系統が狂ってしまったんだろうか。
『――、さ――』
霧島の声が途切れると、系統がこの世界に入ったとき同様に光出す。系統の中に吸い込まれ、佐久夜は意識を失った。
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