第15話


「リリィ。待ってくれ‼︎」

「あんたがわたしをリリィって、呼ばないでくれる?」 

 乙女ゲームのヒロインは恋愛にかまけるだけで、授業を真面目に受ける描写はなかった。

 授業のコマンドを選択して、小さいキャラクターが動いて、数値に追加されるだけだったが、実際の学園生活では授業のたびに多くの課題が出されている。 

 佐久夜の目的はこの世界からの憑依者を出すことではあるが、誰が憑依者なのかを探る以外は、他の生徒たち同様、難しい課題に苦しめられていた。 

 霧島の助けを得てなんとかこなしているが、この現実がゲームだったら、勉強していただけでヒロインは学園での生活を終わらせていただろう。 

 留学生という設定の為に、これでも免除をされている部分も多いらしいのだが、寮の部屋だと課題が一向に進まないため、佐久夜は学園の図書館へと向かう。 

 図書館で佐久夜は意外なふたりを見つけた。リリアナと王子の友人である宰相の息子だ。

「先輩。あのふたり、なにか関係ありましたっけ?」 

 周と行っていた乙女ゲームでは、早々に退場してしまったので、佐久夜はふたりに関係があっても分からない。

『いえ、世界の基盤になっている世界では、なにも関係がなかったと思います』 

 彼らには気づかれないよう、佐久夜は書架の背に体を隠した。

「きみはクリスのことは、なんとも思ってはいないんだろう? なのに、どうして俺のことを無視するんだ」 

 彼の言葉にリリアナは厳しい顔を向ける。

「言ったわよね? サイ。あんたでも、わたしの邪魔をしたら、許さないって」

「……きみは、言っていたじゃないか。俺のことが好きだって」 

 佐久夜たちが気づかなかっただけで、彼とリリアナは付きあっていたのだろうか。

「リリアナさん。殿下狙いかと思っていたんですが、本当は宰相の息子さんが好きだったんでしょうか」

『どうでしょうか。彼女には他にも目的があるように思いますが』

「前にも言ったけど、友達としてってことよ。それにわたしには、今、大切なひとがいるの」

「それが、クリスだと?」

「どう思って貰っても構わないわ」

「きみだけは俺の味方だと思っていたのに」

「……サイ。わたし、あなたのこと。知っているのよ」 

 一瞬だけ、リリアナは彼に悲しげな表情を浮かべると、また顔を戻す。

「? リリィ?」

「とにかく、もうわたしに構わないでちょうだい。サイモンさま。じゃあね‼︎」

「……リリィ。それでも、俺は」 

 ふんっと顔を背けて、リリアナは宰相の息子、サイモンを残して去るが、彼とリリアナの関係が分からない。

「先輩。リリアナさんと彼は知り合いだったんでしょうか」

『どうして、そう思ったんですか?』

「彼らの言動からです。周さまが乙女ゲームを基盤にして作ったというだけで、乙女ゲームとこの世界は別物として考えた方がいいんですよね。登場人物が同じなだけの別の世界だと思った方が自然なのかなと」

『そうですね』

「? なにか嬉しそうですね?」

『いえ。佐久夜さんも成長しているんだなって思いまして。それで?』

「やっぱり、金髪王子と直接、話した方がいいですよね」

『はい。その方がいいかと』

「彼がひとりになることなんてあるんでしょうか」

『最近、彼はお友達やリリアナをおいて、ひとりになることもあるようですよ?』

「そうなんですか!」

『なので、そこを狙えば、お話が出来るかもしれませんね』

「でも、それは〈憑依者〉を見つけることとは関係いことですよね?」

『佐久夜さん。無駄だと思っていたことが案外、近道だったりするんですよ』

「先輩としての助言、ですか」

『似たようなものです。佐久夜さん、それより課題は大丈夫そうですか?』

「……あっ」 

 佐久夜はなんとか課題を教師に提出すると、霧島に言われたとおり、学園内でひとりきりになれる場所を探してみることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る