第28話 大丈夫

街の爆弾事件の真相は皇室に突き止めてもらうように言って、丸投げした。


そんなに頭が良い訳じゃないし、忙しいし、暇そうな人もいるからちょうどいいかなと思った。相手10歳だけど。


それからというもの、わたしはあの時人間に恩を仇で返されたことに怖くなってほとんど神殿を出なかった。その代わり、神殿の問題はほとんど解決した。


1年前に、


「今年の神官による性加害件数は0件です。」


色々な法律を作り、効果のありそうなものを実行して行き、ようやく神官を本来の姿に戻すことに成功した。


また、神殿のど真ん中に相談室を設け、何か問題が起こればそこに報告してもらうことにした。


神官の性加害問題が無くなったからといって、神官に対する問題が全て消えた訳では無い。それだけは言っておこう。


そして次に治療代。前まではかなりの金額でようやく傷一つ治せるくらいで、利用客が上流階級の金持ち貴族のみだった。


けれど、それを知った1年半前に、金額の改正を行った。


貧民にも利用して貰いたい、言い方が悪いけれど神殿の良いイメージだけを人々に刷り込みたい。


そんな思いから、治療代を大幅カットして、10円ガムが買えるくらいの値段にした。


その影響で、利用客は大幅に増え、塵も積もれば山となる。かなり稼げるようになった。


そして、神殿のイメージを良くすることにも成功し、神獣に対する認識が変わった……かもしれない。


「……ということなの。2年の成果はここにあるの!上級神官は神殿にわたしの銅像を建てたいとまで言い出したの。やり過ぎだよね。」


ラリーは首を横に振った。


「僕も神官さまの考えに賛成します。これほどまでに人々の為に動いてきた聖女さまは歴史上エミ・クロック聖女さま以外居ないと思います。」


「大袈裟じゃ……」


ぽうっと顔が熱くなった。きっと今のわたしの顔は血のように赤いのだと思う。


「少しテラスに行ってくるね。」


「お供します。」


「いや、大丈夫。部屋は綺麗に片付いてると思うから、戻って休んでて。」


ラリーを置いて1人、執務室付属のテラスに入った。黄昏時だった。


落ちかけている太陽が空一面を照らし、まるで空に大きな赤いアネモネが咲き誇ったかのようだった。


「はかない恋、恋の苦しみ……」


なぜだか自然に目から涙が零れ落ちてくる。しょっぱい。恋なんてしたことないのに。


もしかしたら、わたしの気持ちではないのかもしれない。誰かが、誰かがわたしの気持ちに自分の気持ちを溶け込ませてる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る