第14話能力者学校の部活動事情
「あなたにも……佐原さんにもご迷惑をかけました。さは……妹さんにも改めて謝罪していたとお伝えください」
そう警戒しながら九条のことを見ていると、九条はしっかりと頭を下げてそう言ってきた。
どうやら今回は本気で謝罪に来たようだが、まさかこんなに簡単に……いや簡単にではなかったのかもしれないが、しっかりと頭を下げてくるとは思っていなかったために驚きに目を見張ってしまった。
だがその驚きもわずかなことで、俺はすぐに九条へと声をかけた。
「ご丁寧にありがとうございます。ですが、俺は気にして言いません。スキルや祝福を扱う学校である以上そういったこともあるでしょうから。それよりも、こちらこそ妹の失礼な態度申し訳ありませんでした」
正直、今回の件はどっちが悪いと言ったらどっちも悪いと思っている。確かに始まりは九条側の失態だっただろうが、祈の対応も悪かったのだ。
いかに俺が死にかけたといっても、あの攻撃自体はわざとではなかった。事故がある可能性を理解していながら油断していた俺も悪いといえば悪いのだ。注意さえしていれば、あの程度の攻撃であれば対処することはできていたんだから。
だから、あの対応は喧嘩になっても仕方ないと今でも思っている。
「いえ。ではこれからは共に学舎に通う学生として、良き関係を築けるようお互いに手を取り合っていきましょう。佐原さん」
「ええ、よろしくお願いします。それから、俺のことは佐原で構いませんが、妹のことは祈と呼んでやってください。佐原が二人だとややこしいでしょうし、男の俺を名前で呼ぶのは難しいと思いますから」
「それは……いえ。配慮いただきありがとうございます。ですが、勝手に名前で呼んで良いものでしょうか?」
「文句を言われたら俺の名前を出せば黙りますから大丈夫ですよ」
「そうですか? では、そのようにしましょう。改めて、これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
そうして俺たちは普通のクラスメイトとして接していくことになった。
始まりこそおかしなものだったが、今後はほどほどに付き合っていければいいと思う。そして、彼女が祈の友人になってくれるのであれば、なんてことを思ったりもするんだ。
——◆◇◆◇——
「——あー、そんじゃあ今日の授業はこれでしまいだが、一つだけ連絡がある。各自、一週間以内に部活動、あるいは委員会への所属をするように。これは強制だ。帰宅部なんてぇもんは存在しねぇから、何かしらの活動をしてもらうことになる。もし所属しない場合は、学園奉仕委員会に入ってもらうことになるからせいぜい気いつけろ」
九条と祈の戦いが終わって翌日。俺達は部活動を行うようにとたんにんである風間から伝えられた。
学校が始まってから一ヵ月が経過して今更と思わなくもないが、まあこの学校は新入生は覚えることが多いから仕方ないのだろう。
「学園奉仕委員会?」
部活も委員会も理解できるが、学園奉仕委員会なんてきいたことがない。というか、なんでわざわざそこだけ名前を出して脅しのように使われてるんだ?
「知らないのか? 簡単に言えば懲罰室ってところだな。実際にどっかに閉じ込められるわけじゃないが、悪さをした奴はその委員会にぶち込まれて放課後に教師陣の手伝いをずっとするらしいぞ。それ以外にも、学校にいる間はいいように使われる奴隷になるって話だ」
「マジか……なら何がなんでも部活に入らないとってわけだな」
流石に奴隷ってのは嘘だろうけど、でもそういわれるくらいこき使われるなんて絶対に嫌だ。
「でも、なんでそんなことになってるわけ? 別に今どき部活くらい入らなくてもいいじゃない」
祈の言うことももっともではある。今時部活なんてまじめにやらなくても大した問題にはならないはずだ。それとも、この学校はそういう伝統や規則があるのか?
なんて思っていると、桐谷が肩をすくめた。
「この学校は〝普通じゃない〟からな。子供の人権がどうしたとか声高に叫ぶ奴らを騙すために、生徒たちは普通の学生と同じように健やかに生活してますよ、ってのを見せつけるために全員が部活をするように、ってことらしい」
「騙すって……まあいいけど、めんどくさい話だな。子供の幸せを確保するはずが、子供の不幸につながるってんだから馬鹿馬鹿しいな」
桐谷の言い方は悪いかもしれないが、言っている内容自体は間違いではないのだろう。
だけど、それが本当ならなんとも独りよがりな善意だよな。
「そもそも、あの手の人達って本当に誰かのことを考えたりなんてしてないでしょ。『誰かを守るために活動している自分』が大好きだから、その欲求を満たすための自己満足でしかないと思うよ」
「なかなか言うねぇ。でも間違いじゃねえだろうな」
だいぶ毒が入っている祈の言葉に、桐谷は苦笑をしつつ同意する様に頷いた。
そして、そんなどうでもいい話はここまでだとでも言うかのように話を切り替えた。
「で、問題っつーか本題だが、お前は部活どうするんだ?」
「そうだなぁ……祈はどうする?」
部活に入らなければ面倒なことになるってんなら入ること自体は問題ない。それに、学生なんだから部活をやるっていうのも、『普通』の事なんだから、そこを考えても俺にとってはプラスの要素となっている。
ただ一点だけ、祈のことが問題だ。俺はできるだけ祈の面倒を見なければならないと思っているが、だからと言って四六時中一緒にいたいと思っているわけでもない。
だが当の祈自身は違う。こいつはできる限り俺と一緒にいようとする。きっと今回の部活選びも、俺と一緒のものを選ぼうとするんじゃないだろうか? だって、こいつはそうすることしか知らないから。
「どうしよっか? なんか適当に簡単そうなのをやっておく?」
「やっておく? って、お前俺と同じ部活にするつもりか?」
「え? そうだけど?」
「いや、せめて部活くらい別のにしろよ」
やっぱりか。俺と同じ部活を選ぼうとしている祈に、内心でため息をつく。
こいつだって、今はまだ幼いかもしれないが、いつかは独り立ちしないといけないんだ。その時のことを考えると、俺がいつまでも一緒にいて何をするにも同行しているってのは駄目だと思う。
「でも特にやりたいのとかないしさー。それに私がいない時にいじめられたりしない?」
「ねえよ。仮にいじめられたとしても何とかするくらいはできるわ」
どうやって、とは言わないけど、俺だって『祝福者』なんだから大抵のことは何とでもなる。最悪の場合でも、俺が『祝福者』なんだってバレるだけだ。
「かも知んないけど、でも心配なのは心配じゃない。だって私の願いは〝みんなの幸せ〟なんだから」
「だとしても、学校にいる時は大体一緒なんだし授業以外は好きに動けよ。〝お前の人生〟なんだからさ」
たとえお前の願いがそうなんだったとしても、これはお前の人生だ。そんな願いなんてくそくだらないものに縛られてる必要なんてない。誰かを助けないといけない。誰かを幸せにしないといけないなんて願いに縛られて自分の人生を棒に振るなんて、そんなのふざけてるだろ。
「祈さん。少しお時間よろしいですか?」
どうしたものかと思っていると、なぜだか九条がこちらに向かってやってきた。こちら、というか祈が目的なのだろう。
でも、何かあったんだろうか? 昨日の今日でリベンジに、なんてことはないだろうけど、でもそれいがいに話しかけてくる要素がわからない。
……いや、もしかして祈と仲良くなるために同じ部活に誘おうとしているとか?
ないことはないと思う。だって祈はこのクラスに二人しかいない『特待生』なんだし、特待生同士で仲良くしようと思うことはあり得ない話ではないと思う。一応、表面上ではあるが、もう祈と九条の間に蟠りはないことになってるんだし。
「ほら、友達がやってきたぞ。何だったら同じ部活だか委員会だかに入ったらどうだ?」
丁度いい機会だ。そう思ってしまった俺は、つい九条の話に割り込む形でそう言ってしまった。
「友達じゃなくて下僕ね。だって私が勝ったんだもん」
「勝ち負けでクラスメイトを下僕とか呼ぶなよ」
「え〜」
「あの、よろしいでしょうか?」
話しかけたにも関わらず、まともな返事が返ってこないどころか普段のようにおしゃべりを始めた俺達を見て、九条は引きつった笑みを浮かべながら再び声をかけてきた。
「ああ。悪いな、余計なことを言って」
「私的には余計なことじゃないし、本気なんだけど?」
「クラスメイトを下僕って呼ぶことがか? それ絶対にやめろよ? ……それより、早く答えないとまた怒られるぞ」
せっかく蟠りがなくなったことになったんだから、余計な火種を作るのはやめてほしい。内心でどう思っていようと、せめてそれを言葉に出すのはやめろ。
「そんときはまたプチッとぶっ飛ばせばいいだけだけど、まあいっか。面倒は面倒だし」
向こう見てみろよ。九条もだけど、その取り巻き達も顔が引き攣ってんぞ。藤堂なんてこめかみがぴくぴく痙攣してないか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます