第3話特待クラス
——◆◇◆◇——
「——みなさん、この度は入学おめでとう。この英雄育成学園『キューブ』に入学したということは、みなさんはこれから世界のために戦う覚悟をし、各国から集まった勇気ある若者だと言えるでしょう。今よりおよそ五十年前、突如として世界の様相は変わりました。かつては魔法など夢物語でしかなかった世の中ですが、今では『スキル』という形で魔法を使えるようになったのですから。それもこれも、全ては人類が神より『祝福』を授かったからだです。極限に至った強い祈りは神に届き、その祈りに神は『祝福』という形で特殊な力を授けることで応えてくださった。『祝福』は正に神の力と言える奇跡の現象を引き起こし、かつての平凡な日々から一気に文明が発達しました。——しかし、与えられた力こそ元晴らしいものですが、それを扱う人間は全員が全員元晴らしい者であったわけではありませんでした。神より与えられた『祝福』を悪用し、犯罪を行う者が現れ、ついには世界の滅亡を願う者まで現れてしまったのです。それに対抗すべく、各国は『祝福』と、そこから派生した『スキル』を使える者を増やし、対抗することにしました。そして、そのためにこの場所が作られたのです」
どこぞの宗教家の話のようにも思えるが、これこそが俺たちが通うことになった学校の入学式における校長の挨拶だ。
まるで事情を知らない子供に言い聞かせるような、説明的な話。でもそれは、ある意味で間違っていないのだろう。こんなわかりきっている話ではあっても、今みたいな畏まった状況で改めて話をすることで、この学校に通う生徒達の脳裏に『自分たちの状況』というのを刻み込もうとしているんだと思う。
そうすることで、自分たちから進んで化け物どもと戦ってくれる駒を作り出すために。
——なんてひねたことを考えながらも、入学式が早く終わるようにと願ってダラダラと校長の言葉を聞き流していく
「ここは世界のために『英雄』を育成するための場所。そのため、辛く苦しいこともあるはずです。もちろん楽しいこともあるでしょう。将来の英雄達のため、最新鋭の設備が整っており、食事も最高のものを揃えています。この島から出なくとも問題ないように、各国の有名店が存在しており、学生割で他よりもや手軽に手に入れることもできるでしょう。しかしそれでも、訓練は厳しく、辞めたいと思うこともあるはずです。ですが、どうか諦めないでほしい。この世界の平和は、みなさんの手にかかっているのだから」
英雄ね……俺からしてみれば、『祝福』じゃなくて『呪い』でしかなく、『英雄』ではなく『化け物』という言葉が相応しいように思えてならない。
だがそれでも、『祝福』を授かったことがない者達にとっては『祝福者』というのは憧れの的で、素晴らしい存在なのだろう。
「最後に、改めて入学おめでとう。これからの皆さんの進む道が輝かしいものであることを祈っています」
そう言って締められた校長の言葉を聞き、俺は思わず笑いをこぼしてしまった。
「祈りが力になる世界で、『祈っています』とは、なんとも薄っぺらい意味のない言葉だな」
だってそうだろ? 本当に祈ってるんだったらそれは何かしらの『祝福』となっているはずだ。それなのにそうなっていないということは、心から祈っているわけではないということだ。
そんな言葉に、何の意味があるっていうんだ?
——◆◇◆◇——
「兄さんと同じクラスぅ?」
入学式の後、クラス分けの指示に従って自分たちのクラスへと移動することになったが、そこで祈が不平を口にしてきた。もっとも、不平と言っても心から思っていることではなく、ただ冗談のようなものだろう。
「だな。まあだろうなとは思ってたけど」
「ほえ、そう?」
「そうだよ。お前と俺の関係を考えれば当然だろ」
祈はわかっていなかったようだが、祈りの状態や俺との関係を考えると当たり前のことだ。
俺は『祝福者』として登録していないから特待生として扱われることはない。だが、そうだとしても扱いは特待生に準じるものになるだろう。だって、|祈がいるから(・・・・・・)。
「えー、別に平気なのになー」
「普通はそう思わないってことだ。っと、ここか」
「お、席隣じゃーん。すっごい偶然」
「なわけないっての。苗字同じなんだから隣で当然だろ」
「でもほら、名前の順じゃなくって適当にばらけさせたかもしれないじゃん」
「だとしても、さっきの理由と同じでどうせ近くにしてたと思うけど」
そんなふうに普段と何ら変わらない調子で話しながら、俺達は自分の席へと座っていった。
場所としては教室のやや通路側、一番後ろの席。壁際でも窓際でもないが、まあそれなりに過ごしやすい場所だろう。
「まあいっか。とりあえず、学校でもよろしくー。——あ、ねえねえ。名前なんていうの? 私は佐原祈って言うんだけど……」
距離の詰めかたすごいなぁ。
祈は左隣の席にいた女子に目を留めると、まるで以前から友達だったかのように親しげな様子で話かけていった。我が妹ながらその行動力はすごい。もっと緊張するとかないんだろうか? ……ないんだろうな。頭が悪いわけじゃないけど、基本バカだし。
「あーっと……」
などと祈と、祈に話しかけられている女子のことを見ていると、声がかけられてきた。
聞こえてきた方向は、祈が話しかけているのとは逆方向の隣から。つまり俺にとっての右隣の席からだ。
声のした方向へと振り返ると、こっちを向きながらひらひらと右手を振っている男子生徒がいた。
見た目としては、なかなか体格が良く、刈り上げているわけではないが短く切り揃えている頭をした男子だ。受けた印象としては快活な人物なのだろうというものだった。
「俺は桐谷大吾ってんだけど、あー、よろしく?」
若干疑問系でかけられた言葉だったが、そこに込められている意図は理解できる。
「ああ。俺は佐原誠司だ。よろしく」
桐谷と名乗った男子に応えるように、俺も自己紹介をして軽く頭を下げた。
それを見てホッとしたのか、桐谷は小さく息を漏らして笑みを浮かべた。
「おう。あ、で、さっき話が聞こえたんだけど、そっちの子は妹なのか?」
「ん? ああそうだな。妹で、祈って言うんだ」
「へえー。兄弟で同じクラスって珍しい気もするけど、まあこの学校だしそういうこともあるか。一応成績順で決めてるみたいだしな」
どうやらそうらしい。普通は成績で決めるなんて公言しないものだろうが、この学校は色々と特殊だ。優れている者をその他大勢の中に放り込んで成長を抑える必要なんてないし、むしろ逆だ。優れている者はどんどん成長させなくてはいけない。
そのために授業を組んでいくわけだが、優秀な者とそうでない者が同じように授業を受ければ、必ずどちらかに悪い影響が出てくる。優秀な者に合わせればそうでない者はついていけないため怪我をすることになるし、逆に合わせれば優秀な者が成長する機会を奪うことになる。
だからこそ、この学校は成績でクラスを決めると初めから公言しているのだ。
「まあ二人で同じように勉強してるんだから成績だって同じようになるだろうし、同じクラスに入るのはおかしいことでもないだろ」
「だとしても、二人ともこのクラスってのはやっぱり珍しいと思うけどな」
だが、成績で決めると公言しているが、その中でも特別なクラスというのが存在している。それがここ、俺達が入ることになったクラスだ。
「どこぞのご令嬢に令息。他国のお姫様に名門武家の後継ぎ。何だったら英雄の孫なんてのもいるクラスだ。一般人でも入れるけど、色々と厳しいだろ」
このクラスは『1ーA』という至って普通のクラスだが、そこにもう一つ呼び方がある。それは、『特待クラス』というもの。特待生、およびそれに準ずる生徒達の入るクラスだ。
簡単に言えば、特別待遇する必要がある生徒が入るクラス。もっと言えば金持ちや身分があるやつが優先して入れられることになるクラスだな。そういった奴らを入れた上で、クラスの人数が余れば成績上位者から順番に入れていくことになっている。らしい。
らしいなのは、あくまでも他人から聞いた話だからだが、多分大きくは間違っていないだろう。
「それ言ったらそっちこそじゃないか?」
こう言ったら何だが、桐谷はあまり勉強ができそうな見た目をしていない。いやほんと、見た目で判断して悪いんだが、どう見てもスポーツ方面で優秀な人物って感じだ。スポーツ特待生とかだったら理解できるけど、この学校にそんなものはないしな。
「こう見えて、俺も一応名門の家系だからな。勉強もそれなりにできるけど、まあそんな学年で何番目って言えるほどじゃねえ」
「ああ、まあ何となくわかるわ。桐谷って運動系って感じがするしな」
「完全に見た目だろ、それ。間違っちゃいねえけどな」
俺の言葉に笑いながら答える桐谷。その態度を見るに、なかなかできた人間なんだろうと思った。
だが、その直後にそれまでの笑顔とは少し違う雰囲気を醸し出し、話を続けた。
「もしくは……佐原が『特待生』だったりするのか? だったら話が早いんだけどな」
これは、探っているんだろうか?
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