第14話
「しばらく休んではいかがですか」
アリシアさんが心配する。
だが、俺はすぐに西へ行くと決断する。先ほどの体験は、これまでの人生で最大の危機だったはずなのだが、それで特に心がすくむというわけでもなく、やれるだけやろうという意欲で満ちていた。
犬たちも煙の影響が後を引いているわけではなく、すぐに元気を取り戻した。
俺たちは西へ向かった。
西の林の手前まで来ると、盗賊たちが探知範囲に入り始める。
その数は多かった。ガイさんの言ったように北からの人数を加え、さらに南からも引き上げ、西に集中させているらしく、50人近い人数が集まっていた。
その事をアリシアさんに告げ、ガイさんを介して村長にも伝えてもらう。
そしてどこまで進むべきかを少し考えた。
今だと盗賊たちの多くを探知できているとはいえ、少し後ろに下がられると探知できなくなる状態だ。それに、離れたところからの増援があったとしても、ほぼ到着するまでは知る事が出来ない。中途半端に前に出ると林の中の細い道で通行の邪魔になる。村内各所からの加勢はすでに移動を終えているが、怪我人の搬送はこの後も続くだろう。だとすれば林を抜けて、入り口に近い戦いの場のすぐ後ろまで行くべきなのだろうと思った。
アリシアさんに相談してみたが、意外な事に肯定的だった。
「後方にいても、一番脅威となる忍びの者の攻撃は、避けられませんからね」
だとすれば、近くに人が多い方が向こうはやりにくく、こちらにとってはガイさんの近くにいる方が安心できるという。
俺はガイさんにも連絡をとって、結局さらに前進する事にした。
林の中を進み西の開けた場所に出る。
その先では村と盗賊、双方が持てる戦力のほぼすべてを集中させた戦いが行われていた。垣を挟んで武器を持った者たちが戦っている。村長はその少し後ろに立ち、どこかが破られそうになると後ろに控えている三人一組の者たちに指示して駆けつけさせ、敵の突破を防ぐ。
傷を負った者がいる組は状況を見ながら交代させ、怪我人は応急手当てをして、さらに治療が必要な者はきららさんの所まで下がらせる。
余った者どうしはまた三人ずつ組ませて予備として後ろで控える。
ゴブリンは体格ではナランスに劣るが、常に三人で一人に当たらせるという策で、対抗できている。
垣の少し後方には矢防ぎの萱が立てられていて、怪我人の世話をする者、そしてガイさんとチカさんはそこにいた。
「敵か出方を変えるまではここで待機ですよ」
ガイさんはそう言う。村人だけでも今は十分に防ぎきれるという事だ。
「遠くから増援が来る様子はありませんか?
「何も」」
「ならば結構です」
だが、もちろん。敵は無策ではなかった。
敵の後方に弓を持ったものが並ぶと、合図の声とともに垣に攻めよせていた者たちが、引く。そしてさらに別の合図で一斉に矢が放たれた。
村長は敵が引くと同時にこちらに引くように命じていたので、矢は垣の周囲の地面に刺さり。双方けが人はない。
次の矢は垣をさらに遠く越えて矢防ぎの前までが攻撃範囲となる。村長は矢防ぎに隠れるよう指示の声を上げ、自分も駆け込む。何人か逃げ遅れて矢が刺さったが、幸い重傷ではないようだ。
そして三度目に矢が放たれた。それは何か燃える物を先端に付けた火矢だった。雨がまだ降っているのにもかかわらず、その火は消えずに矢は飛び、矢防ぎの萱に次々突き刺さっていく。
「燃えてるだ燃えてるだ」
誰か村人が叫んだ。
降り続く雨でびしょぬれになっている萱に矢から火が燃え移り、矢防ぎ全体に広がっていく。
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