第12話
俺はほっとすると同時に気合が抜けてしまって、その場にすわりこんだまま動けなくなる。
「階梯高揚」の発動で、きららさんが救われた事ですっかり気が抜けてしまった。
だが、まだ安心できる状況ではない。
ガイさんが駆け戻って来た。
「取り逃がしました。申し訳ない」
「やはり忍びですか?」
アポさんがたずねる。
「そう、かなりの手練れでしょう。団長が警告してくれるまで、居所をつかめませんでした」
ガイさんは悔しそうだ。
「おそらく南の森の木のどれかにひそみ、こちらの様子を見ていて、弱点を見抜き、強襲で劣勢を打開すべく動いたのでしょう」
「きららさんが唯一治癒の術を使えるのを見抜かれたわけですか」
「そう、軽傷ならすぐに復帰でき、本来なら致命傷となる場合でも命を取り留められる可能性が高まる。それは戦いによる戦力の消耗と士気の低下を軽減できる、こちらにとってかなり有利な点でした。だが、こうもたやすく見抜かれるとは」
ガイさんは本当に悔しそうだ。
「前の戦いの時から監視していての判断だったのでしょう。ガイさんはその場にいなかったのだから、敵が動向をそこまで読めなかったとしても、それは仕方のない事では」
アリシアさんが言う。
「いや、指揮者への攻撃の可能性に気を取られすぎました。予測できない事ではありませんでした」
そこでガイさんは気持ちを切り替えるように首を振った。
「ともかくここの期におよんで効果はあるが即効的ではない手を打ってくる以上、敵はまだまだ戦いを続ける気なのがわかりました」
そして村長の方へ歩き出す。
「村長殿、そろそろ西へ戻られる頃合いではありませんか」
「西ですと」
盗賊たちを川岸まで押し戻そうと懸命に声を上げて指示を出していた村長は振り返り、やや不審そうに答えた。
「そうです。逃げ出した北の敵勢が再び組み込まれれば、西は苦しくなります」
そして林の中の道で、必死に防戦する敵の方を見て言った。
「ここまで劣勢になって、逃げ場もない。それなのにいまだに士気を保っている。それは何かまだ逆転の秘策を敵が持っているからではないかと思いませんか」
「その秘策とは?」
「それはまだわかりません。しかし、何かやるとすればそれは西の可能性が高いと思います。いざという時に村長がいれば、それだけ的確に対応できるでしょう」
村長はしばらく悩んだが、決心した。西へ戻す手勢を決めて、まだ勢いの衰えない雨の中を走って行く。
(アポさん、こきつかってすみませんが、一つお願いがあります)
ガイさんとアポさんは話しの内容を聞かれないように、しばらく「黙信術」で話しあった。
飛び立つアポさんを見送ってガイさんが俺に話しかける。
「私はこれから西に向かいますが、団長はどうされますか? 西の林の手前までは来てもらいたいところですが、判断は団長に任せますよ」
「わたしは」
言いかけて俺はつまってしまった。きららさんの事が心配だし、まだ頭がうまく回らない。
ガイさんは笑って言った。
「判断できるようになるまでそこで休んでいてください。ねそこさんは村の中心で待機した方がいいでしょう。敵の意図はまだ読めないので、用心です」
「承知」
ねそこさんは地中に姿を消し、ガイさんは軽快な足取りで西へ向かう。
(動けないから。悪いけど怪我人はこちらに連れてきてもらうように伝えて)
きららさんが「黙信術」でそう巫女さんたちに語りかける。まだ治療を続けるつもりらしい。
「きららさん大丈夫なんですか。まだ無理をしてはいけないでしょう」
思わずそう言ってしまった。
「うん。無理はしない」
そう言って第三階梯に昇る。
可愛いオオサンショウウオの様な両手で俺の手を取る。。
「そして、大丈夫だから」
俺は何も言えなくなってしまった。
そしてこの状況で自分が何をするべきか考えようとした。
だが、考えはまとまらない。
だったら少しでも状況が分かりやすい場所にいるのがいいだろう。そう思って西へ向かう事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます