第10話
盗賊たちは一時、東の林を抜けて村の中に入り込んだが、今は押し返されているそうだ。今の位置からでは探知できない。
チカさんがこれまでの状況を色々伝えてくれるので、整理してみる。
川岸で見張りをしていた二人の話では、盗賊たちは雨で増水した川を細い筏で下って来た。十人以上もいたので、見張りたちはたまらずに逃げ出した。
村長は入り口を守るために西にいて、他に戦慣れしたものもそれぞれ北や南を任されていたので、家が立ち並んでいる村の中心部には、急な事態に対応して指揮をとれるものはいなかった。
盗賊が来ると、女子供やわずかばかりの男は逃げ惑う。その中で、見張りたちは西まで走り村長に告げた。
チカさんはその時点で襲撃を知り、俺たちに報せてくれたわけだ。
そこから村長はこの数なら守り切れると判断した分を残して、手勢を率い東に向かった。
見張りたちはそれぞれ北と南に向かい、村長からの指示を伝えた。
南は少しの人数しか割けなかったが、北はガイさんの活躍により、敵が逃げたため、まとまった数を回すことが出来た。
盗賊たちは家々をめぐって、塩のありかを探していたが、もちろん簡単にわかる場所に置いてあるわけもなく。しばらく探し回っているうちに、きららさんをはじめとして、次々と巫女さんが到着した。
盗賊の方もセリアン教団の巫女が村に加勢している事は知っていたが、それまで見た事のない動物に変身した姿を実際に目の当たりにすると、たじろいで足が止まった。そこでそれぞれの神術を使うと、到底かなわないという恐怖心で逃走した。きららさんとアポさんはこのやり方で、村のあちこちにいた盗賊を追い出し、そのうち二人はねそこさんによって落とし穴に埋められた。
そしてガイさんが到着し、その後から北を守っていた村人たちが続くと、盗賊たちは総崩れになり、自分たちが侵入してきた林の中の細い道に戻った。
そこで西や南の加勢も加え、村長が指揮し、攻め立てた。盗賊たちは狭い道で防御に回っている。
これが俺の把握した状況だ。
そうこうしているうちに、逃げ惑っていた村の女性や子供たちが次第に広場に集まってくる。
巫女がいるので安心できるという事なのだろう。
そのために俺たちは次第に東の方へ押し出されるように移動するはめになった。
こちらは犬を六頭連れているので、よく言う事を聞いてくれるといっても、なじみのない集団からは距離を取る必要があると思ったからだ。段々と東に向かう状態になったので、俺はいっそ東へ進んだ方がいいのではと考えた。そこでガイさんに聞いてみた。
「北のように小頭の位置を探る必要はありませんか?」
アリシアさんがその言葉を「黙信術」で伝えてくれた。」
(すでに大勢は決しました。後は村人の手にゆだねるべきでしょう)
「わかりました。なら、少し前に出てもいいですか。家の中にひそんでいる盗賊がいるかもしれませんよ」
アリシアさんがその言葉を伝えると、少しだけの沈黙の後でガイさんは答えた。
(いいでしょう。ゆっくりと進んでください。十二人探知したら立ち止まってください)俺は了解したことを伝えてもらい。歩き始める。今の位置からでは家々は四分の一くらいしか探知範囲に入っていない。
緊張しながら進み、すべての家を調べ終え、家の中には誰もいない事を確かめた。
ほっと息をついて、しばし立ち止まってから、東の林に注意を向ける。すでに四人は探知できている。残りの人数は林の中で村人と戦っているはずだ。
再び歩き始めようとした時、突然探知範囲の外の南の領域から現れて、急速に林の手前に進む人影が現れた。それは先ほどのガイさんに匹敵するぐらいの速さだった。
「南から一人来ます!」
俺は警告を発し、その進路を知るために集中する。
その人影が向かっている先にいるのは、きららさんだった。
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