第5話

 寝ている間に敵がくるような事はなかった。

 俺が目を覚ました時には、きららさんはすでに起きて待機している。アリシアさんとねそこさんが眠り、交代にそれまで寝ていたアドラドさんが起きてくる。

 松明を持って二人で北の林の前で敵に備える。空は雲でおおわれて星は見えない。たまに切れ目から月がのぞく。


 アポさんから報せがあった。

(北に動きがあります。大勢が迂回運動中)

 俺は緊張して探知に集中する。

 だが、敵はその位置から南下してくる様子はない。

 時間がたつにつれ、一部は動きを止め、それ以外も多少の揺れはあるがほとんど一か所にとどまったままだ。


(分け身を近くまで送ってみましたが、会話をほとんどしてません。どうやら交代で眠っているようで、これは攻撃に備えての待機でしょう)

 しばらくは、攻勢はない見込みだが、俺は探知を続けた。

 やがて東の空が明るくなってきた頃、西の方から村の入り口に接近する者が現れた。そして「コケコッコー」とニワトリが時を作る声が聞こえてきた。


 しばらくするとその人物はチカさんと一緒に俺のいる場所までやって来た。それはヒトとニワトリの両方をあわせ持つ存在で、もちろんその人がガイさんだった。

 ガイさんはやや長身で、細身、肌は褐色。茶褐色の髪の真ん中が赤毛で、その部位を他より伸ばして、逆立つように髪型を整えている。そしてやはり他のセリアン教団んお巫女さんと同じ旅装束で、左手に短い槍を持っている、精悍な印象で、で戦慣れしているという評判にふさわしい容姿の人物だった


 ガイさんは俺の近づてい来ると右手を挙げて、挨拶した。

「初めまして、ガイと言います。セリアン教団でニワトリの巫女を任されています。あなたが恵さんですね」

 やや低めだが威勢のいいよく通る声で、少しだけしわがれている。

津江つえめぐみです。義勇団の団長を務めています」

 ガイさんと俺は握手した。


 こちらの世界にも握手の習慣はあるらしい。今回は精神の高ぶりを起こさぬように自制していた効果があったのか「階梯高揚かいていこうよう」を発動させずに済み、俺はほっとした。

「なるほど。恐ろしい方だ」

 ガイさんがそう言ったので俺は少し驚いた。

 だが、その後は別に俺を恐れているふうもないので、聞き間違いか、それとも恐ろしいの意味が俺が思うのとは違うのだろうか。

 戸惑う俺を残してガイさんは村長のもとへ向かう。


 北にひそんでいる盗賊たちの動きはない。

 雨はまだ降ってこないが、雲は次第に厚くなってきている。

 やがて交代の時間となり、寝ていた巫女さんが起き、それぞれの役割についていた巫女さんが戻ってくる。義勇団の全員が顔を合わせる場にガイさんも戻って来た。


「やあ、久しぶりの人は久しぶり。私も恵義勇団の輪の中に混ぜてもらえませんか」

 もちろん一同、異存はなかった。

 ガイさんはこの後、村の中を回って、より良い防衛戦を構想を考えながら、助言できるところはするつもりと語った後で、こう言った。


「ところで、山田村の守りだけでなく、その後の恵義勇団の活動にも参加させていただきたいのですが」

「それはこちらからも望むところです」

「歓迎するよ」

 とアポさん、アドラドさんが言った。

「まだ、正式な結成式を行っていないので、その時には参加してもらいましょう」

 とアリシアさん。


 こうして義勇団に七人目の巫女さんが加わったところに、村の女性たちが朝飯を運んで来てくれた。

 そしておひつの数は前と同じだった。

 ついに、あきらめたのかと俺は思ったのだが。蓋を開けてみると、御飯が強く握ったおにぎりの様に圧縮されてぎっしりと詰め込まれていたのだった。

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