第6話
そして汁はいつもの山菜だけでなく、新鮮な川魚も入っている。
きららさんの話によると、昨日東の川で村の子供たちが獲っていたらしい。
出汁取りと具を兼ねてまるごと煮られているその魚を箸でつまむ。ハゼのグループに含まれるヨシノボリだというのは見ればすぐわかる。胸びれにある筋、鰭条という名前だが、その数を数えてカワヨシノボリと同定した。
念のために動物探知能力を使ってみる。死んだものだと、少し難易度があがってすぐには識別できない事もある。特に近縁の種がいる場合てこずる場合もあるが、しばらく試してみてやはりカワヨシノボリだと確認できた。俺のいた世界では、カワヨシノボリは昔は普通に食用にされていたのだが、今は食材として流通せず、個人が趣味的に捕獲したものを料理している程度になっている。今まで機会がなく、食べた経験のない食材を口に入れてみる。あっさりと癖のない味だった。
そのように、俺が初めてのカワヨシノボリを興味深く味わっている間にも、巫女さんたちは真剣い戦いの事を話し合っている。
「村長に会い、こちらでも聞いた事から判断すると、敵はそれぞれの方面ごとに指揮するものを置いているのは確実でしょう」
ガイさんはそう言って便宜のために西、北、南それぞれの集団を組と呼び、その指揮者を
「おそらくは頭と、頭が連れてきた二人の三人で、それぞれ組頭を分担し、配下はその指示に従っているものの、多くは意欲が低いと考えられます」
「つまり、組頭をやっつけちゃえばいいわけ?」
アドラドさんの問いにガイさんはうなずく。
「その通り、組頭が無力化されれば、その組は退却するか、少なくとも組織的な行動はできなくなるはず」
「局所的な戦闘で、一気に全体の態勢をくつがえせるわけですね。しかし、実行に際しては」
アポさんの言葉をガイさんが引き取った。
「組の後方にいる組頭の位置まで、敵中を突破しなければならないわけです。それは私がやりましょう」
「身がやってもよいが」
「奇襲性という点では申し分ありません。だが、組頭は皆、盗賊と違って戦場で働いて来た者たち、とっさに反撃を加えてくる可能性も高い。
「承知。ああ一つ言っておかねば。義勇団内では身はねそこさんと呼ばれておる。できればそう呼んでほしい」
「ほほほう」
ガイさんは興味深そうな顔つきになった。
「では、そのようにいたしましょう。ねそこさん。ところで、それはひょっとして団長からの発案ですか?」
「左様」
ガイさんは何度かうなずくと、俺の方を見て言った。
「組頭を急襲するためには、先だってその所在を知る必要がある。そのために団長には私と同行してほしいのですが」
「身やアポさんでも、それは探れると思うが」
「アポさんの分け身は昼に活動するのは苦手、ねそこさんの場合足音などは聞き取れても、人語などは地上まで穴を開けなければ聞き取りにくいのでは? 分け身を危険にさらす恐れがありますよ」
「それはそうであるが」
ガイさんは北の森を見上げた。
「あそこに延々ととどまり続けているのは、何らかの奇襲を仕掛けるために、機会を待っている可能性が高い。動き出せば事態は急転する。少しでも早く組頭の位置をつかみたい」
俺の場合、探知範囲内ならすべて者の位置を知り、それがどう動くかも常に把握できる。ガイさんはそれをもとに、組頭の位置を推測できる。攻撃が始まった場合、それが一番早い方法だというのだ。
「分け身でも危険を冒さずに、組頭らの所在を突き止められる可能性はあるでしょう。しかし、それには時間がかかる。うまく戦いの始まるよりも先に突き止められれば、それでよし。そうならなかった場合に、団長に足労願うというのはどうですか。そして、見つけ出して倒した者が盗賊団全体の頭だった場合、この戦そのものが終結させられるかも」
しばらくの間議論になった。
そしてアリシアさんが提案する
「ガイさんが組頭へ向かった時に、団長を護衛する者が必要です。犬たちもいますが、誰か巫女がもう一人つくべきでしょう」
「こちらもそのつもりでした。異存ありませんよ」
こうしてガイさんの提案を組み込んで、本日の行動計画を立てる。
それが終わり、飯も食べつくした頃、ぽつぽつと雨が降り出した。
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