第4話

 俺はすぐにチカさんにそれを告げ、その場所へと移動する。

 もっとも、不安はない。すぐにそれが誰なのかわかったからだ。

 俺とチカさんと犬たちが、分け身のアナウサギがいる天幕の前まで来ると、アドラドさんが中から出てきた。腕には分け身を抱えている。

「やあ、昨日ぶり。いや、恵さんはおとといの夜ぶりかな」

「アドラドさん、ご無事で何より。なぜここにいるんですか?」

「まだその事は話してなかったかな」


 アドラドさんの説明によると、セリアン教団の巫女は自分の捧命種がいる場所へ瞬時に移動できる神術「会同想着かいどうそうちゃく」が使える。移動できる距離は巫女さんがその術にどれだけ熟練しているかで違ってくるし、行った事がない場所だと近くなり、分け身がいる場合は遠くなるという事だった。

 チカさんの場合だと、この術を使って、大洋を越えて分け身のいる別の大陸にも移動できるのだそうだ。これで前に疑問に思っていた事が一つ解決した。


「分け身がいるし、この程度の距離は楽に移動できるよ。ところで今どうなっているの?」

 俺とチカさんは交互に昨晩の出来事を簡単に説明する。

「わかったよ。じゃあまずは村長のところに行ってくる」

 アドラドさんは分け身を「懐担空間かいたんくうかん」に移すと、村長の家に向かった。

 チカさんが北の林にいるアリシアさんとねそこさんに「黙信術」で連絡する。

 戻って来た二人と相談し、きららさんはそのままにして、アポさんを起こし、アドラドさんの話を聞く事にした。



 やがてアドラドさんは、飯を運ぶ村の女性たちと一緒に戻って来た。

 数えてみると、おひつは一つ増えていた。女性たちはまだ頑張るつもりらしい。

 まずは護衛任務から戻って来たアドラドさんをねぎらい、道中の話を聞く。


「護衛の方は楽だったよ。盗賊たちは道をふさごうとはしていなかったし、耳を立てていれば、偶然の遭遇も避けられるからね」

 アドラドさんと二人の使者は特に危険な事もなく、盗賊たちが隠れ家に利用している一帯を抜けて領主のもとへと道を進んでいたのだが、今日の昼過ぎにその領主のもとから戻ってくる村人たちと出会った。そしてその一行の中に一人のセリアンの巫女がいたのだった。


 すでに世界の孔の事はこの地域のセリアン教団員の間に広まりつつあり、その巫女も魔獣が人里に降りる前に見つけるつもりで深い山の中を歩いていたところを、山田村に戻るゴブリンたちと遭遇し、彼らとともに移動している途中だったのだという。

 そして使者たちは引き続き領主のもとへ向かい、山田村を目指していた一行は先を急ぎ、アドラドさんはそれを報せに即座にこの村に戻ったのだった。


「ガイさんもこの村に来ていただけるのですね」

 アリシアさんはうれしそうだ。

「村の人に先行して大急ぎで来るから明日の朝には来れるだろうと言っていたよ」

「そんなに早く来られるなんて、さすがはガイさん」

 チカさんが感心する。

「この村では鶏を飼っておらぬのは少し残念であるな」

 ねそこさんがつぶやく

「ガイさんが来るなら頼もしいですね」

 アポさんはとても喜んでいる。


 どうやらここにいる五人の巫女さんは皆、ガイという巫女さんを知っているらしい。

「そのガイという方はどの動物の巫女なんですか?」

 ねそこさんの言葉からニワトリの巫女だろうと推測できたが、一応確認してみる。

「ガイさんはニワトリの巫女だよ。捧命種の生息範囲が広いから、行動範囲も広い。今回出会えたのは本当に運が良かったね」

 アドラドさんがそう答えてくれた。

「次の襲撃の前にガイさんが来てくれればかなり楽になりますね。村の人たちも到着すればさらに安泰です」


 ガイというニワトリの巫女さんは、比較的戦いにたけているという。以前にもどこかの町を守るために戦闘に参加した事もあるのだとか。そして村人の方も、戦場でのふるまい方は知っているが年老いた者と、若いが戦を知らない者しかいないという今の状態に、戦なれしている武装した若手の集団が加わるので、大いに状況が改善されるだろうという事だった。



 ともかく明日まで乗り切れば、状況が良くなるというわけで、気のせいかもしれないが村の雰囲気も明るくなったように思えた。

 今夜の夜半からは、また哨戒任務につく。それまでの間俺は天幕の中で眠りに着いた。

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