第3話
戦闘結果の次は、敵の行動を予測できるかの話になる。
「敵の本拠地が分かればいいのですが、まだつかめていません。一か所に定めず、絶えず移動している可能性があります」
チカさんの話では、もともと盗賊の集団は複数いて、それぞれが何か所かの隠れ家を持っていたらしい。今はそれらの集団を一人の頭がたばね、隠れ家の間を動いて、その時いる場所を本拠としているのだと、アポさんは推測していた。
「チカさんに聞いて判明している分と、それらの位置から推測した隠れ家の候補地をねそこさんに頼んで捜索したいと思います。うまく頭の居場所を突き止められれば、敵の動向を予想できるようになるでしょう」
「敵はすぐ来るでしょうか?」
俺は聞いてみた。
「数をそろえての大規模な攻撃に失敗したので、しばらくは攻めてこないと思います。士気は下がっているでしょうし、作戦も立て直さねばなりません」
「しばしの猶予を得られたとして、その間に私たちは何をしましょう」
アリシアさんの問いにアポさんが答える。
「義勇団としてはこれまでの方針と変わりません。計画に従って哨戒を行い、ここで待機して突発事に備える。後は敵の本拠の捜索と捕虜の尋問、村人の手伝いですね。それでいいですか」
アポさんが確認し、俺は同意する。
村人は戦いで傷んだ防御施設を補修し、南の森を伐採して開けた部分を増やし、北の林と森の間に垣などの防御施設を建設中なのだそうだ。そして垣などはかなり低めに作っているがそれでも人手は足りていない。
アリシアさんが北での作業の手伝いに回り、アポさんは捕虜の尋問、俺はアリシアさんから遠くない地点で哨戒を行う事になった。
俺は広場の北で、哨戒の任につく。探知できるのは村人たちゴブリンとアリシアさん。
この距離ならはっきりと区別できた。
そして、アポさんの言ったように、敵は来ない。
眼に見えるものはアナウサギと犬たちの他は、林と畑と家々とその間からのぞく水田、そして青空を流れる雲。これまで好天続きだったが、少し雲が増えてきたようだ。でも、まだ雨は降りそうではない。
やがて、飯が運ばれてきて、アポさんとアリシアさんが戻り、眠っていた三人が起こされ、村にいる義勇団全員での食事になる。
村の女性たちは、さらにおひつを一つ増やしていた。だが、ねそこさんを擁する俺たちは、起きてきた巫女さんたちへの現状と予定を説明する間に、飯を食いつくしてしまった。
「捕虜から有益な話は聞けたかの?」
ねそこさんの問いに、アポさんは答えた。
「直接的には何も。しかし、それぞれがもとはどの盗賊団に所属していたか、現状をどう思っているか、これまでの生い立ちなどをある程度聞けましたし、めいめいの性格や人間関係も少し把握できましたので、それらを利用して明日にでももっと切り込んだ尋問をしてみますよ」
「
「それは心配なさらずとも大丈夫ですよ」
チカさんが保証した。
「きららさんはこの後も休んでください。戦いになれば休みなしがずっと続きますから」アリシアさんがそう言い、きららさんが答える。
「わかった。一度川の様子を見て来てから休むよ」
今のところ東からの敵の侵攻はないが、万一に備えて地形を詳しく知っておきたいのだそうだ。
「それに明日は大雨になりそう。その日のうちに止むけど」
へえ、きららさんは気象について詳しいのか。それとも神術によるものなのか。その辺を知りたかったが、今度は南の哨戒をしなければいけないので、その暇はなかった。
アポさんは眠り、アリシアさんとねそこさんは北へ村人の手伝いに行き、俺は南の哨戒でチカさんがついていてくれる。
しばらくこの広場で起きている者はいなくなるので、アドラドさんの分け身であるアナウサギを天幕の一つに連れて行き、しばらくここにいてくれるように頼んだ。
アナウサギは何度か軽くうなずいて、承諾した事を伝えてくれた。
俺はチカさんや犬たちと南に向かいながら、その可愛らしい光景を何度も頭の中で回想した。
「村の女性たちは色々頑張っていますね」
チカさんが歩きながらそう話しかけてきた。
今朝俺が寝ている間に、村のゴブリンの女性たちと過ごす機会があり、彼女らの行動や会話を色々と話してくれた。そして食事の支度の話から、俺たちの飯について話題は流れた。
「それで今一番の目標は私たちを満腹させて、『もう食べられないよ』と言わせる事なんですって」
「それはねそこさんがいる限り難しそう」
そう言って俺とチカさんは笑い合った。
南での哨戒の間も敵は現れず、平和な時間が続いた。だが空は次第に曇ってきた。きららさんが予想したように明日は雨が降るのだろう。
そんな事を思っていると突然。人の大きさの動物がそれまでいなかった場所に突然現れたのを探知した。その場所は義勇団が支援中心として使っている広場だった。
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