第21話

 アドラドさんが言った。

「それぞれの役割を決めなきゃ。他人を治療出来る術が使える人はいる?」

「治せる」

 きららさんが手を挙げた。

「じゃあきららさんは後方で治療係と、他には?」

 他に治療の術を使える巫女さんはいなかった。


「チカさんは村の人と一番親しいから、村長との連絡係をお願い」

「わかりました」

「ねそこさんは地中からの奇襲係」

「奇襲係とは妙な名よの」

「おや、心づきなされませぬか?」

「いや、承った」


「あとはいつものように、アポは上空、アリシアが前面に立って、私はその後ろだね」

 そう言ってからアドラドさんは、付け加えた。

「犬たちには恵さんを守るように言っておいてね」

「わかりました」

 俺はうなずいた。


 アポさんが発言する。

「夜の見張りは私が空からやりますが、もう一人誰かが村の入り口の近くにいた方がよいでしょう」

「身がやる」

「じゃあお願い。村長に弁当を用意してもらうから」

 アドラドさんの言葉にねそこさんは

「有り難し」

 と答えた。


 他にこまごまとした事を話し合い、日が傾いて風が冷たくなってきた頃、俺たちは村に向かって歩き出した。

俺は気になっていた事があったので第一階梯に戻ったアポさんにたずねた。


「睡眠時間は大丈夫なんですか。アポさん」

 アポさんは昨晩ずっと起きていて、今朝は俺が背負われていたので、アリシアさんの背中で眠る事はできなかった。そして崖を登って以降もほとんど起きていて、さらに今夜もずっと起きている事になる。


 心配する俺にアポさんは片眼をつむって答えた。

「ご心配なさらず。実は私は第三階梯以上の身体なら、半球睡眠できるんです」


 半球睡眠というのはイルカの研究から明らかになったもので、睡眠の時に左右の大脳半球が片方は眠っているがもう片方は起きている状態になり、左右交代しながら脳の半分だけ眠っているという睡眠の方法だ。イルカの場合水面に出て呼吸しなければいけないので、こういう眠り方をするようになったと言われている。その後イルカ以外の動物でも行っている例が多数見つかった。多くの鳥類で半球睡眠が確認され、フクロウもその一つだ。


「昼間に活動する時には、半球睡眠を適宜使う。長い旅の間に慣れてしまいましたから、問題ありませんよ」

 俺は少し安心したが、同時にそれぞれの動物種固有の生理活動は、どの程度巫女さんに影響を与えるのだろうかと気になった。第一階梯ならほとんどヒトと変わらないのだろうけれど、それ以上の階梯で長時間活動した場合はどうなるのだろうか。これも後でするべき質問の一つに加えて、村長の家に戻った。



 家の中にいたのは村長の他は晩飯の支度をする女性だけで、男性はみんな盗賊対策のために出払っていた。

「巫女様方は今夜はこの家でお泊り下され。むさくるしいところで恐縮ですが」

「いえ、大勢で参りましたのに快く受け入れてくださり感謝します」

 アリシアさんがそう答え、俺たちは頭を下げた。


 晩飯は筍入りおこわに、筍入りの汁、薄く切った筍と筍づくしだった。

 筍の切り身は湯通しぐらいはしてあるのかも知れないが、生のような味で、しかしあっさりとしていやな味のないうまさだった。取れたての筍を食べたことのない俺は感心した。食事の後、村長は

「わしは村の中を見て来ますので、皆様はお休み下され」

 と言って出ていった。


 俺たちはアポさんとねそこさん以外、寝る準備を始めた。いつ盗賊が来るのかわからないので、休める機会がある者は休むというのが、当面の方針だった。

 ゴブリンの女性たちにわらで編んだ袋を渡され、中に入って横になる。これならば、今まで使ってきた寝袋の方が快適かもしれないと思ったが、村長もこれで寝るらしいので、これがこの村の最上の寝具なのだろう。もっとも俺は外に犬たちを置いたまま、家の中で寝る事の方が気がかりになっていた。


 一番働いていないのにもかかわらず、ひどく疲れていた俺はすぐに寝入ってしまった。

 そしてすぐに起こされた。

 アポさんが盗賊たちの襲撃を報せに来たのだ。

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