第20話

 犬たちも連れて村の入り口の近くまで行くと、アリシアさんが木陰から手まねきしている。そこでは盗賊たちからは見えずに、話声が聞こえる。俺たちは隠れて村長と盗賊の会話に耳をすませた。


 村長が大声で盗賊を問いただしていた。

かしらは誰ぞ?」

「ここにはおらぬ」

「話にならぬな。頭を呼んで来い。相手をするのはそれからだ」

「すなおに渡してくれるのが、互いのためだろ」

「ふざけるな! 誰がそんな話を聞くか!」


 怒鳴り声を聞いて低くうなる三郎を抑えて、話を聞く。

 言い争いはしばらく続いたが、結局まとまらずに、盗賊たちは帰っていく。

 巫女さんたちは少し話し合った。まだ盗賊が襲撃してくると決まってはいないので義勇団の話はせずに、手伝いを申し出ると決まった。


 すでに飯を食べ終わっていたねそこさんがアリシアさんと交代してその場に残り、残りは村長の家に戻った。

 俺たちは再び膳の前にすわる。村長も席に着いたが、ずいぶんと怒っているようだ。盗賊は来ないと思っていたので、裏切られた気持ちになっているのだろう。他のゴブリンたちも高ぶった様子で、しきりに小声の会話をしている。


 村長は騒ぎのわびをすると、黙々と飯を食べ始めた。俺たちも箸を取り、しばらくは無言で食事をする。

 アポさんが村長の様子を見はからって、話しかけた。


「村長様、一つ申し出があるのですが」

「なんでございましょう?」

「盗賊は帰りましたが、あきらめたとは限りません。私たちも少しお手伝いをしたいのですが」

「いえ、巫女様が手をわずらわせる事ではありませぬ」

「いえ、夜に見回りをするだけです。私たちが旅をする時のいつものやり方ですから」

「そうおっしゃるならば」

 村長は同意した。


「それから、もしも盗賊が再交渉に来た時は、セリアン教団の巫女が滞在していると伝えてもいいですよ」

「よいのですか」

「こちらはかまいません。むこうも荒事をしずらくなるでしょう」


 アポさんは続ける。

「最後に村の中を見て回る許しをいただきたいのですが」

「もちろんよろしいです。誰か案内を付けましょうか?」

「それには及びません。わからない事があれば後で聞きます」


 食事がすんで俺たちが村長の家を出ると、くわを担いだゴブリンたちとすれ違った。

 筍掘りから戻って来たらしく、背負った籠には筍が入っている。

「小さいのしか取れんかったぞ」

「それぐらいの方が、えぐみがなくてうまいんじゃ。それよりも聞け」

 盗賊について話す村長の怒りの声を後にして、俺たちは犬を連れて東へ向かう。


 アドラドさんが「黙信術」で入り口の近くで待機しているねそこさんに話かける。

「ねそこさん。会議をするから河原まで来てよ」

「承知。分け身を一体置いて、そちらに向かおう」

「呼び立てしてすまないねえ。ところでねそこさんの分け身は今何体?」

「八体抱えておる」

 そういえば、巫女さんと分け身は感覚を共有できるのだった。こういう時に見張りの役を出来るのはかなり便利そうだ。


 東の河原で気持ちいい風に吹かれながら、今後について話し合った。みんな第一階梯の姿だが、なぜかアポさんだけは第三階梯の姿で片目をつぶっている。アポさんの場合、第三階梯では腕が翼状だが、空を飛べるわけではない。翼の先端は、羽毛におおわれ、鋭く曲がった爪の生えた手になっている。


 アリシアさんが言う。

「今後盗賊が来なければそれでよし。話し合いで解決するなら、その時に村長と相談して協力できる事を決めればよし。今は襲撃があった場合について、何をするか決めておきましょう」


 アドラドさんが提案する。

「入り口を村の人が守れている間はまかせておいて、突破して村の中に侵入してきたら私たちで撃退するというのはどう?」

 アリシアさんが答える。

「基本はそれでいいでしょう。そうなった場合、一つお願いがあります」

 すまなさそうな表情でアリシアさんは続けた。


「可能であればの話ですが、撃退する相手は軽い怪我ですむのなら、それですませてください。死者や重傷者が出れば、争いが激化して後戻りできなくなる恐れがあります。村の者ではない私たちが勝手に退路を断つような事態は避けなければいけません」

 みんな異論はなかった。


 もちろん暴力沙汰に関して、俺に意見などあるはずもなかった。

 右で寝そべっている太郎の背中をなでながら、なんとか穏便におさまってほしいなと願うばかりだった。

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