第22話
「盗賊が来ました。人数は二十名ほど。道を駆け上がって村の入り口に迫っています」
俺が寝ぼけた頭をはっきりさせようと努力している間に、アポさんは隣の家にいる村長にも告げる。
「入口を守らせておる者には」
「すでに知らせています」
「かたじけなし。
村長は槍を持ち、ゴブリンたちを連れて走っていく。
月のない暗い道を、俺たちは後から進む。
村の入り口まで近づくと、何かがぶつかり合う音、短い叫び声、村長が鼓舞する声が聞こえてくる。
その道は入り口のすぐ近くでは、左右の林に挟まれ狭くなっている。
後から三々五々駆けつけてくるゴブリンたちの邪魔にならぬように、林の手前で道のわきにすわって待機する。
俺は争い事は苦手で、声や音だけでも恐ろしく、心臓の鼓動が高鳴る。
六郎を抱き上げて、頭をなで回す。鼓動は少しおさまったが、まだ心は落ち着かない。
村の周囲を飛行していたアポさんが戻って来た。
「今攻めてきているのは25名。他に17名が近くに潜んでいます」
「報せてきます」
チカさんが村長のもとへ向かう。
(ねそこさんは今どこにいるの?)
「黙信術」でのアドラドさんの問いにねそこさんが答えた。
(入口のすぐ下であるが)
(少し東に移動して林が途切れるところまで来て)
(承知)
アドラドさんは首をかしげて、頭をかいた。
「思っていたよりも、敵は多いね」
人数が多いほど分け前が減るので、簡単に奪える可能性があるうちは比較的少ない数だけ集めて、力づくで攻めなければいかなくなれば、その時に数を増やすだろう。盗賊は山に隠れている時は、少人数で広く散らばって過ごしていると聞いていたので、集めるのには時間がかかるはず。大勢で押し寄せてくるのはもう少し先というのが、アドラドさんの見込みだった。
「頭は近ごろまで盗賊ではなかった者。盗賊の様には物事を考えていないのかも知れませんね」
アリシアさんがそう応じた。
チカさんが帰ってきて村長から聞いた戦況を伝える。入り口付近には垣を築いてあって、それを挟んで双方が戦っている。盗賊としては相手をひるませている間に垣を乗り越えて侵入したいところだが、狭い場所なので向こうは数の多さを生かせていない。このままなら持ちこたえる、との話だった。
「きららさんが治癒の神術を使える、と伝えました」
チカさんは付け加える。
「負傷者は多い?」
アドラドさんがたずねた
「軽い傷を負った人は多いようでした。重傷の者だけ下がらせると村長さんは言ってました」
やがて暗がりの中を、最初の怪我人が二人がかりで運ばれてくる。
胸に刃物で負わされたらしい傷がある。大量出血というほどには血は出てはいないようだったが、俺の鼓動は再び速くなる。
チカさんときららさんが負傷者に近づく。
「今から治療の術のために姿を変えますから、驚かないでください」
チカさんがそう説明し、きららさんは右手を伸ばすと第三階梯まで昇る。
ヒトの体形は保っているが、眼や口の形や大きさ、肌も全てオオサンショウウオの様に変化した姿を見て、負傷者を運んできたゴブリンたちは驚いて声をあげ腰を抜かした。
だが、きららさんは全く気にする様子もなく、傷口に手を当て、そのまま動かない。
やがて乱れた息をしていた負傷者が次第にゆっくりと安定した呼吸をするようになった。
「傷はふさがった」
きららさんはそう言って立ち上がると、第三階梯のまま俺たちのところまで戻って来てすわった。
神術の効験を見た二人のゴブリンはしきりに頭を下げ、負傷者を家に連れて行った。
ここからでは、東の高地にさえぎられて直接は見えないが、月が出たのか次第に明るくなってくる。
「すごいですね、きららさん! どの程度の傷まで治せるんですか?」
感動した俺の言葉に、きららさんはすぐには言葉を返さなかった。
表情はよくわからないが、少し照れているのかもしれない。
しばらく考えて、ようやく返答が返ってきた。
「第三階梯なら、取れたばかりの手がもとどおりにくっつくぐらい」」
それは想像以上だった。そして第三階梯と限定したのは、つまりそれ以上ならさらに重傷でも治るという事なのか。また、後回しの質問が増えた俺は、質問しなくても答えがわかったりしませんようにと願った。
そのときアポさんから「黙信術」で報せがあった。
(潜んでいた17名が動き出しました。加勢に来るようです)
チカさんが連絡に走る。
やがて西の方から、これまでよりも大きな叫び声が起こる。
「林まで下がれ! そこで立て直す!」
村長の声が聞こえる。
ついでこちらに逃げてくるゴブリンたちが姿を現した。何人かは、矢が刺さっている。
そしてそれに続いて、ゴブリンよりも背の高い人影の集団が見えた。
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