第12話 『肉屋』

*****



「ばぁんとぉさぁまのためならえ~んやぁこぉら~♪っと。」

はああ~あ。


結局、番頭さまの頼み事を引き受けた。

潰れた肉屋へ忍び込んで呪器を回収、処分する。

肉屋がなんで呪器なんかと思うが。

あの時の異様な生臭さは呪関係か。


日が暮れて、肉屋から少し離れた路地に入り、回り込んで裏口を、バールのようなものでこじ開ける。

いつも下水道にいるんだ、暗い方がやりやすい。

屋内を、適当に物色しながら一通り回ったあと、地下を調べる。

番頭さまのの手のモノが一通り探したが見つからなかったそうだ。


残っているのは地下室の床石をひっくり返すぐらいだってよお。


ガチの肉体労働はじじぃにはキツイんだよお。


ヘルニア持ちなんだよお。


さっき、ピキッッて、ピキッッて…。


泥傀使えたらなあ。


泥傀使うとあとが残るんだよお。


俺だってバレるんだよお。


コソ泥が肉屋の隠し金を漁ったように見せかけるんだよお。


一杯のみてぇなあ。


くそっ、 バカ造め!


なあにが、番頭さまに代わって仕切りますだ。


番頭さま、本業の邪魔になるからって子守り押しつけやしたね。


適当にそれっぽいことさせて気持ちよく本国に帰ってもらうって、接待ですか。


………。


……。


…。


んっ?


ここは砂だな。


「おっ、コレだな。」


砂の中から靴箱くらいの木箱が出てきた。


おらっ!


バールのようなもので木箱をこじ開ける。

布に包まれたナニカ。

布をめくる。


石の? 仮面?


えっ?


ええ?


アレじゃないよな?

いや違う。

違うはずだ。

こっちの世界に迷い込んだヤツがイロイロ持ち込んでる。

アレはフィクションだ。

アステカってヤバイ呪術やってたんだっけ?

関係ない。

でも呪器って。

関係ない。

あれ、肉屋って行方不明になったんだっけ。

家族全員夜逃げしたんだよな。

あれ、さっき見たとき家のあちこちに血が飛び散ってなかったか?

待て、関係ないから。


「泥傀、来い!」


近くの下水に待機させておいた、泥傀が排水管を遡り這い上がってきた。


「泥傀、これを吞みこめ。」


泥傀が木箱ごとアレを吞みこむ。


「泥傀、追いてこい。」


もういい、とにかく処分する。

こういう時は専門家に丸投げだ。

お祓いだお祓い。

分神殿に持って行こう。

なあに神聖魔法でピカッとすりゃ解決ってもんよ。


「泥傀、出来るだけ泥を残すな。」


泥傀をつれて堂々と大路に出る、こそこそすると怪しまれるんだよ。


「待て、何者か」


しばらく歩くと、光が浴びせられ、辻守に誰何された。


「お役目ご苦労さまでございます。」


ペコリと頭を下げる。


「うんっ、ドブ浚いか?」


「へいっ。」


「こんな時間にどうした?」


「へぇ、下でちょっと手こずりまして、で、その、厄介なモノが出てきたんでさあ、

これから分神殿で『お預かり』をお願いできないかと。」


「っ!」


辻守たちの顔が引きつる。


「お改めなさいますか?」


「よ、よい、いけ!」


「お手を煩わせて申し訳ありません。

あ、これで忌晴らしでも…。」


袖の下を渡す。


「おお、気を付けてな。」


「ありがとうございます。」


そのあとは問題なく分神殿に到着した。

夜番の神官様に事情を話し、たっぷり喜捨して、アレを『お預かり』してもらった。

もちろん、喜捨した分はバカ造に請求してやる。


*****

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