第11話 『東迷宮城市口入れ業協同組合本部』
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ああ、いやだいやだ、行きたくねえ。
はああ。
『東迷宮城市口入れ業協同組合本部』
ご立派な看板の前で思わずため息をはく。
ここに来るのは何年ぶりだろう。
最初にここに来たのは、ああ、副神殿長様に連れられて来たんだった。
こっちに迷い込んで、神殿に保護され、女神様に加護をもらったり、この世界の事をイロイロ教わったり。
で、生きていくには稼がにゃならない、ここなら食いっぱぐれは無いと紹介されたんだ。
その時、担当になったのが番頭さま、当時は下民区の出先をやってた小番頭さまだった。
まあ、大神殿の副神殿長様の紹介とはいえ、泥人形を操ることしか出来ないじじぃを押しつけられて、
小番頭さまも困惑したろう。
出来ることは知れているのだ、落ち着くとこに、落ち着いた。
日雇いで、取引先の用水路のドブ浚いに押し込んでくれた。
口入れ屋、派遣業?の元締めだ、言う通りにドブ浚いをしていれば食うには困らなかった。
そのまま素直に働いていたら、それはそれで幸せに暮らせてたんだろうが、そうはいかない。
ドブを浚っていると、小銭やら指輪やらを拾うことが有った、そん時はちょっと豪華な晩飯だ。
で、その小銭や指輪がよくオイルトラップ、こっちじゃ泥溜りに引っかかっているのに気づいて、
でかい泥溜りが有る下水道に潜り込むようになった。
日雇いが馬鹿らしくなるほど稼げた、そうなりゃ、もっともっとで、下民区で銀貨や銀の指輪が拾えるなら、
金持ちの壁内なら金貨、金の指輪がと欲をかいた。
実際、当時の俺には大金と言える稼ぎが有った。
そんなことをしている内に、影部のお仕事している小番頭さまにばったり。
今思えば、仕込みじゃないかと…。
結局、キタナイ汚れ仕事の下請けをすることになった。
とは言え、小番頭さまは壁内と外とのつなぎが仕事で有り、俺がやるのはそのあと始末だった。
まあなんだ、現場をキレイに片づけて、大ネズミの巣にエサを放り込むそれだけだ。
ああ、たまに巣じゃなく、境のドブ川に流すこともあった。
見せしめだろう。
半年ぐらいだろうか、小番頭さまが出先から本店に異動になった。
俺は普請方から仕事を貰うようになった。
口封じがどうとかは無く、ただ、縁が切れたというやつだ。
***
「小番頭さん、で、どういった御用で。」
小番頭を名乗る男に訊く。
あれから踏ん切りをつけて受付に向かい用件を告げた。
待つことなく、商談用の小部屋に案内された。
しばらくして今回の担当と言うこの男があらわれた。
番頭さまは今所用で出かけており、自分が担当することになったとのこと。
30半ばで本部付きの小番頭なら出来者なのだろう。
言葉の端々に自信が窺える。
だが、俺ごときにいちいち圧を掛けてくるあたり、底が知れると言うやつだ。
番頭さまと較べれば、いや、較ぶるべく無く、凄みが足りない。
俺の態度が気に入らなかったのだろう。
一瞬、口元がゆがむ。
「大した事ではないんですが、番頭の言いつけでして。」
「番頭さまが、そうですか。」
若造が! ここで威を借りるか。
あ、ああ! くそっ、跳ね上がりの躾を押しつけやがったな。
「わかりました、番頭さまじきじきの御用とあらばお任せください。」
深々とあたまを下げる。
頷く気配。
バカが!?
俺を重んじる必要ない。
だが、神殿預かり、そして奉行所の請負人は軽んじることは出来ないんだぞ。
ほんとにわからないのか?
もしかして、番頭さまがわざわざ俺を呼び出した意味もわかってないのか?
おいおい! 勘弁してくれよ。
はああ~あ。
だ。
くそっ!
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