第10話 『天敵』
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「泥傀、潜れ! 底に張り付け。」
下水道のヘドロの中で息を止める。
泥傀が拾う床底の振動に集中する。
重さは有るのに明らかに軽い。
どういう歩き方をしているのか、重さはそのまま、振動は10分の1。
泥傀の接地面積は広い、そして知覚の大半が振動の感知に頼っている。
そう、地面を歩くものなら蟻ですら察知する。
そして、人ぐらいの大きさなら地面を通じて心音すら拾い、
下水道のような限定空間では空気が壁にあたる振動を拾う。
なのに、ここまで近づかれるとは。
影部の?
あいつらは『壁内』から出てこない。
はずだ。
くそっ!
まっすぐこっちに来る。
頼む、行ってくれ。
ぴたり。
すぐ上の通路で振動が止まる。
そして消滅した。
バケモノめ。
タンタン。
軽いタップ。
ぐうう。
「泥傀、あがれ。」
水面に出た、泥傀。
「泥傀、開けろ。」
ぽかりと開いた泥傀から頭を出す。
「これはこれは、お久しぶりにございます。
小番、おっと失礼、番頭さまになられたそうで、
ずいぶん遅くなりましたが、おめでとうございます。」
「いえいえ、ありがとうございます。
あなたの方こそ、普請請負人殿になられたとか、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。
それにしてこのような場所で会うとは奇遇ですなw」
「まっこと、奇遇ですねw」
「「ハハハハハ。」」
くそっ!
「さて、番頭さま、久ぶりの再会、とても名残惜しいのですが、まだまだ仕事が残っておりまして…。」
「おお、これは済まないことを、懐かしい顔を見かけたものでついね。」
どこで見やがった。
「いえいえ、こちら方こそ、声を掛けて頂いたありがたいことです。」
「実はね、ちょっと仕事を頼みたくてね。
もちろん、今日明日のことじゃないんだよ。
ちかいうちに一度本店の方に顔を出してくれないかい?」
逃がしちゃくれねえか、くそ。
「そりゃ、番頭さまじきじきのご指名とあれば必ず伺います。
ただ、その、俺のようなヨゴレには本店の敷居はなかなかに高くて、
気後れ致します。」
「なになに、大神殿預かりの普請請負人殿なら気後れなど。
店の者にちゃんと言っておきますよ。
気兼ねなく訪ねてくださいな。」
「はい、ありがとうございます。
ちかいうちにお伺いますので、よろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、お手数をおかけしますね。」
ぺこりと頭を下げ泥傀に潜り込む。
「泥傀、閉じろ。潜れ。」
なんのブレも無い軽い振動が離れて行く。
はああ~あ。
全部バレテラ。
身の安全だけは保障されたが、何を押しつけられるんだか。
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