第9話 『キレイな汚れ仕事』

*****



はあ~どっこいしょ。


今日は下民区の下水道でドブ浚いだ。

この辺は臭くて汚いだけで気楽なもんだ。

泥傀に潜り込んで下水の泥の中を這いずり回る。

基本は泥傀に泥を取り込ませて泥溜りに引きずって行くだけの簡単なお仕事です。

半日、下水道をウロウロしているだけで片付く感じだな。

とは言え、どんな簡単な仕事にも、いい塩梅ってのがある。

足りないと仕事を貰えず、やり過ぎると仕事が無くなる。

見回りの番方が通る所はきれいにしといて、それ以外はほどほどにだ。

お役人にとって、見えない所は存在しないか、他の役人の仕事なのだ。

自分の領分以外は口も出さなきゃ、金も出さない。

プロなら金の出ない仕事はしちゃいけない。

それをやっちゃあ、みんな不幸せになるってもんだ。


「ちっ!」


骨が溜まってやがる。

まあた、肉屋だな。

横着して下水に放り込みやがって。


俺はこの城市の地下で10年生きている。

下水道は飯のタネだ。

十日と開けず巡回し、何処から何処へ下水が流れるかは把握している。


ふん、10年もやってれば、イヤでも目利きになる。

この骨はキレイに肉をそぎ取っている。

骨に残る刃物のあとに迷いが無い。

大ネズミの食い残しなら、歯形でわかる。

ギルドの解体所なら、もっと雑に刃物の喰い込んだあとがのこる。

家で食うためにバラしたんなら量が多すぎる。

だから、肉屋。

あそこの親父はどケチで、ゴミ運びの駄賃を値切って町方人足たちに嫌われてる。

この前は通風孔を逆流させて下水のクッサイ空気を送り込んでやった。

今度は排水口を詰めて汚水を逆流させてやる。


とりあえず、骨をかき集め、肉屋の近くの排水口へ持っていく。

泥なら泥傀に取り込めば終わりなんだが、骨だとイチイチ抱え込ませて何度も往復だ。

めんどくせ。

いらん手間とらせやがって。


泥傀から抜け出し、周りを確かめる。


「うえっ、生臭ぇぇ。」


どんだけ捨ててんだ?

こっちは大概の臭いには慣れてんのに、なんだこりゃ。


泥傀に骨を持たせて、排水管に潜り込ませる。

排水管の曲がった部分に骨を置かせ、詰め込んでいく、仕上げに大きな骨が引っかかったようにはめ込む。

並みの泥傀にはこんな芸当は出来ないが、コイツとは10年来の付き合いだ、阿吽の呼吸である。


ふう、今日は良く働いた。

久しぶりに薄めて無いエールを飲みてえなあ。

だが、この臭いじゃあなあ。

よし、帰って水浴びだ。


***


十日ほど経って、普請奉行所の表番から仕事の斡旋があった。

下民区の南市場の元締めからの依頼だ。

なんでも、肉屋の周辺で汚水が溢れて騒ぎになっているらしい。

その前にも異臭騒ぎがあったらしい。

ほんと、酷い店だな。

周りの迷惑考えろよ。


*****

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