第7話 『始末』

*****



「おはようございます。」


関番にギルドカードを見せ、下民区を出る。


「じいさんやめとけ、札付きども昨日から何度も関所に押しかけて来てるぞ。」


「ご親切、ありがとうございます。

でも、大丈夫。」


頭を下げて関所を離れる。

のんびりとドブ川沿いに歩く。

もちろん泥傀はドブの中をついてくる。


「いたぞ、こっちだ!」


かかった。

振り切らないよう、駆け足で逃げ出す。

ちらちら人数を確認しながら走る。


息が上がり始めた頃。


「待て、ごらあ。」


5人、よし!

そろった。


「じじぃぶっ殺す」


スパートをかけて、下水道の排水口を目指す。

息がきつい。


岸壁の階段を駆け下り、水面に踏み込む。

足首まで泥に浸かりながら排水口の鉄柵まで走る。

普請請負人になった時に貰った鍵で柵戸を開ける。


水音と共にわめき声が近づく。


「にがさねぇぞ」


それはこっちのセリフだ、ばあ~か。


柵戸は開けたまま、闇に潜る。


***



軽い振動がはしる。


「馬鹿が火ぃつけやがったな。」


「泥傀、上へ。」


泥傀がゆっくり泥の中から水面に這い上がる。


「泥傀、口を開けろ。」


泥の山にポッカリ開いた穴から、頭を出して周りを伺う。


下水道の奥からただよってくる、何かが焦げた臭い。

かすかに聞こえる呻きとすすり泣き。

しばらくすると悲鳴にかわる。


「ぎいやあ、喰うな、喰うな」

「あぶうごふごふ」

「いたいひいひいいいい。」


仕込みは上場結果は御覧じろってか。

地下の住人たちは、ガス爆発のあとはバーベキュー大会だと覚えちまったなあ。

まあ、骨も残さずきれいにしてくれるから、後片付けも心配ないか。


泥傀からはい出す。


「泥傀、ついてこい。」


柵戸を抜け、鍵をかける。


「ちゃあんと戸締りしとかないと、大頭がおっかねぇからな。」


ドブ川を渡り川沿いを少し歩く。


「泥傀、ここで待て。」


排水口の近くに戻る。


「泥傀ども、散れ。」


川底がうごめき、水面が波立つ。

すぐに治まった。


段取り八割ってのはほんとだな。

駆け出しのころ、先輩にさんざん言われたなあ。


待たせた泥傀を回収し、関所に向かう。


関番にギルドカードを見せ、


「お役目ご苦労様です。

厄介ごとは片付きましたんで、お手数をおかけしました。」


と深々と頭を下げ、さりげなく手を差し出す。

関番はすばやく受け取り、


「おお、そうか、何、仕事だからな、気にすんな。」


「ありがとうございます。」


関所を抜け、ぶらぶらと下民区を歩く。

道端の用水路から何かか這いずる音がする。

うん、ちゃんとついてきているな。


*****

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