第6話 『普請請負人』

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俺が名刺を作るならこんな肩書になるのだろう。


東迷宮城市 会合衆 普請奉行所 普請組 普請方 普請請負人


もちろんここには名刺なんてものは無いが。

ちなみに東迷宮城市は『誓約と命約と契約に結ばれし父と母と子の家』の東部にある

『鍵を受け継いだ者』直轄の軍権を持たない半自治領である。

一般には帝国と皇帝のことらしい。


暇が出来たので普請組大頭に挨拶しにきた。

大頭とは10年近い付き合いになる。

もとは手形取引所の新鋭だったのが嫁さんの実家のやらかしに巻き込まれて、

普請方に降格左遷されてきたのだ。

その頃、俺は下民区の排水管のつまりに泥傀を潜り込ませて直し、日銭を稼いでいた。

それが今や、実質的に奉行所を差配する大頭と文字通りの地下の王様だ。

持ちつ持たれずで、出世したもんだ。


「毎度おおきに、大頭さまにはご機嫌う」


「やめよ!

用件を言え。」


無駄を嫌う、ずっとこんな感じだ。


「ご冥加はいつものように、いつものところに。

それと、ギルドの方は何か言ってきましたか?」


「ご苦労、破落戸など何とでもなろうに。」


「ありがとうございます。

あいつらはメンツが絡むと…。」


「ふんっ。」


「前のようにギルド員を大量に送り込まれると厄介ですので。」


「皆殺しにしておいて何を言うか。」


「人聞きの悪い、私は誰一人殺めておりませんよ。」


「誰一人かえってこなかったろうが。」


「さて、なんのことやら、私にはわかりかねますので。」


「下のことに、さわりは無いのだな。」


「もちろんでございます。」


「ならば良し。」


「では失礼いたします。」


まるで時代劇の悪代官と悪商人のようなやり取りをして奉行所を後にする。

俺が請け負ったのは下水道のドブ浚いだ。

毒だのガスだのは、関係ない。

普請奉行所は下水がきっちり流れればそれでいいのだ。

ましてや、協力要請も無しにひとの職場を踏み荒らしたヤツらがどうなろうと自業自得だよ。

ほんと、持ちつ持たれずは大事だな。


そのまま、ぶらぶらと商店をひやかしながら歩く。


やっぱり、店持ちは高いねえ。

質もいいんだろうが。

俺みたいな底辺には、貧民区の闇市場で充分なんだが。


はあ、飯がなあ。

闇市場の安飯に慣れ過ぎて、下民区の飯は割高になんだよ。

何が入っているかわからないが、なんやかんや喰って腹を壊したことは無い。

今はそれだけが問題か。

ほんとめんどくさい。

一膳めし屋行くか。

あそこは人足向けだから量が多いんだよなあ。

最近、喰い過ぎるとしんどいんだよなあ。

はああ、めんどくさい、めんどくさい。


「ずいぶんしょぼくれてるな、ドブ浚い。」


「えっ、ああ、番所の旦那、見回りですかい、お疲れ様です。」

辻廻りの番所の親方が声を掛けてきた。


「おう、なにしてんだい。」


「いやあ、飯がたかいなあと。」


「あ~ん、ああ、そういや貧民区の札付きともめたヤツがいるって、おめえかい?」


「へへ、ちょいと、やっちまって。」


「そうかい、さっき闇市場から回状がきてたぜ。」


「ホントですかい?」


「ああ、札付き5人、縁切りだとよ。」


「やった! ああ、旦那、ありがとうございます。」


「おお。」


「また、番所の方に差し入れさせてもらいますんで。」


「お、アレか?」


「へえ、穴蜂の巣がそろそろなんで、もうちょい待ってくだせえ。」


「いやあ、いつも悪いなあ、たのむぜ~。」


「おまかせください、穴蜂の蜜のあじがわかる同好の士は旦那だけなんすよ。」


「はは、まあな、じゃ、まだ途中なんでな。」


「へい、お気をつけて。」


番所の旦那は恩人だ。

俺がこっちに迷い込んだ時に、辻廻りをしていた旦那に拾われた。

そして、四方八方手を尽くして大神殿にわたりをつけてくれた。

この世界で迷い人は神殿に保護される。

だが、神殿に辿り着ける迷い人は…。

俺がこのくそったれな世界で曲がりなりにも真っ当に暮らしてるのは旦那のおかげだ。

恩はかえさなな。


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