第3話 『泥傀』
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爽やかじゃない目覚め。
じじぃは起きた時から疲れている。
いや、寝てるだけで消耗する。
身体の節々が痛い。
目ヤニがひどい。
ノドがイガイガする。
何もやる気にならない。
とりあえず、生きて目が覚めたとホッとする。
いつのまにか、それが当たり前になった。
「ᚾÁᚾ ᛞÍᚴÈ ᛋĪ ᚥǍ ᛚĀ」
明りをつけ、水を飲もうと水瓶をのぞいた。
「ああ、からか。はあ。」
水を造る呪文もあるが、ひどく不味い。
冒険者たちも飲みたがらない。
水袋の革臭い水を飲む方がマシだと。
だから、まずは水汲みだ。
ついでに洗濯だ。
桶二つに洗濯ものを詰め込み、天秤棒に引っかけて担ぐ。
「泥傀、どけ。」
出口を塞いでいた泥傀が這い出ていった。
枯れた下水道をえっちらおっちら歩き出す。
「泥傀、ついてこい。」
意識することなく泥傀に命令している。
コイツとはもう10年の付き合いだ。
この世界に迷い込んだ時、大地母神様に貰った加護のおかげでコイツと出会えた。
泥傀は野良の泥ゴーレムだ。
俺はそう思っている。
神殿では、大地母神様がこの世に生き物を産みだす前、練習のために泥をこねてつくったと伝えられている。
また、大地母神様は泥傀に生命を吹き込まなかったので、意思を持たず、定命の存在では無いとされている。
わかりやすく言えば不死身、実際、三度ほどぶっ壊されたが、一晩たてばもとにもどっていた。
もし別のに変わってたとしても、俺には違いがわからなかった。
まあ、だから10年のつきあいだ。
泥傀の仲間?はそこらへんにいる。
周囲のマナを吸って大きくなり、ある程度育つと分裂するそうだ。
大地母神様はずいぶん練習したようで、バリエーションも多種多様だ。
もしかしたら泥傀に『個』は無いんじゃないかと思っている。
以前、近くに他の泥傀が居るのを気付かずにコイツに命令したら、その泥傀も同じことをした。
何と言うか、認証の壊れた、ブルートゥーススピーカーの様に、
近くにいけば勝手に繋がって音を出す感じか。
それ知ってからは地下のあちこちに泥傀を仕込んである。
昔TVで見たスマートグリッド?を真似したら上手くいった。
おかげで独占業者として成り立っている。
リモート出来ないので毎日歩き回らないといけないのが欠点だ。
大地母神様の加護ってのはアクセス権のようなものだ。
女神様に作られた存在に何となく絆の様なものを感じる。
ただ、生命を吹き込まれた意思を持つ生き物は、
俺からの認証を弾いているようだ。
だから意思無き泥傀たちは俺に従ってくれる。
俺の命令範囲は半径10メートルくらいだ。
個別に命令するには泥傀を一々10メートル引き離す必要がある。
すごく不便だが仕方がない。
その場その場で、泥傀を捕まえればいいのだが、なんとなしにコイツを連れている。
泥傀からしたら何の意味もないのだろうが、コイツを連れて行かないと落ち着かない。
コッチに迷い込んでイロイロあって、ドブ川の岸でたそがれている時にコイツに会った。
ドブの中の一メートル程の泥の塊になんとはなしに、これからどうしたらいいんだと、
話しかけたら、のそりとこちらに近づいてきたので思わず悲鳴をあげて逃げ出した。
あの頃世話になってた大地母神様の分神殿に駆け込んで事情を教わるまで、
本気で魔物に襲われたと思っていたなあ。
あの後、ドブ川に確かめに行ったら、俺を待っていた。
それからずっと一緒だ。
たぶん俺がくたばるまで…。
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