27.最悪の再会




「何してくれてんだ、ラック!? お前っ……せっかく、ここまで接敵なしだったのに!!」

「ピィィ……あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

「だから、それやめなさいって!!」


 ラックの絶叫が響き渡ったと同時、聞き覚えのある警報が山城内に響き渡る。

 あ、これ完全に詰んだわ。

 入口に立っていた騎士も、それと話していた商人たちも、俺がいる建物の影の方向を見て、騒ぎ立てているのが聞こえてきた。


「チッ、仕方ない! ここは一旦引くか!」

「ピィィ……ぁあ"――――」

「次、発狂したら本当にぶっとばすぞ!? 頼むから、今は大人しくしてくれ!」

「ピ、ピピィ」


 まだ叫ぼうとするラックに叱責を飛ばし、俺は建物の影から監視塔の入口を見た。

 やばいな、完全に臨戦態勢だ。

 騎士は剣を抜いて、商人の護衛どもは主人を囲うように各々の武器を構えだした。警戒しながらも、俺のほうへと近づいてきている。


 流石に焦った俺の様子を見たのか、ラックがしょんぼりとうなだれる。村にいたとき、ラスティに怒られていた時とは比にならないほど、落ち込んでいるようだ。

 しかし、うなだれたいのはこっちの方。

 残念なことに、今回のやらかしは、盗み食いとは比にならない。


「怒鳴って悪かった。お前も背囊が落ちて驚いただけだもんな……反省するのは後だ、ラック。背嚢の中に戻っててくれ。悪いが、全速力で走る」

「ピィイ!」

「返事だけは、一丁前に良いんだよなぁ……」


 俺はラックが背嚢内に戻ったことを確認し、監視塔とは反対方向へと全力で疾走を始めた。ラスティから、俺の乗り心地は最悪と言われていたが、今そんなことを気にしている余裕はない。


 しかし、そんなことは杞憂だったらしく、ラスティも眠気の方が優っているのか、俺が走り出しても起きる気配はなかった。

 この時ばかりは、眠ってくれていて有難いと思う。


「クソ、やはり侵入者か! おい、侵入者が西部に向かって逃げたぞ!」

「魔力探知をできるものは、できる限り伸ばせ! こんな時期に侵入者を逃したとなれば、どんな罰があるか分かったものじゃない!」

「王国騎士ノ方々モ大変デスネー」

「――――?」


「チッ、なんか知らんが、相手も必死らしいな!」


 俺はそう言いながら、舗装された道というものを無視し、なるべく最短距離で城壁の外を目指す。

 山城さえ出てしまえば、捲くのはそう難しいことじゃない。魔力探知も凄腕の使い手じゃない限り、誰か一人を捕捉し続けるのは困難だ。それこそ、第一等騎士でもできる奴はいないだろう。


「あと10メートル……!!」


 眼前に登ってきた城壁が見えた。

 ここまで来れば、あとはもう勢いをつけて城壁を駆け上がるだけ。後ろの方に、遠くから明かりが追いかけてくるのが見えるが、俺が登りきるには、まだまだ遠い。


 よし、逃げ切――――!


「あぁ、もう本当にツイてないわね! 来て早々に侵入者なんて!」

「――――は?」


 刹那、俺の前に紅蓮の炎が落ちた。

 まるで、燃え盛る星が地上に落ちてきたように、それは闇夜を裂き、一瞬にして全てを煌々と照らし出す奇跡を再現した。


 顔を撫でる熱波。耳元でちりりと鳴るのは、外套が焦げる音。その熱と焦げ臭さが現実味を増す中で、俺の周りには壁のように炎が立ち上がり、一つの円を描いていた。


「あんたは――――」

「お風呂入って、温かくして、眠りにつきたったのに……絶対に許さないわよ、不届き者! どこに侵入したか知らない、なんて言わせないんだから!」


 炎の壁を割って入ってくる影は、徐々に人型を取り戻し、その正体を明かす。

 赤い伸びた髪。水晶のように煌めく碧眼。見たことある騎士服に身を包んだそいつは間違いなく。


「エリ、ザ……?」

「っ、お兄さん!? それに、背中にいるのって……ラスティじゃない!!?」


 今日、洞窟で出会った少女が、劫火の魔剣を携えて俺たちの前に現れたのだ。

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