総長の妹(婚儀まで残り2週間)
19.魔女が住む村
「おー、火傷の跡も消えそうだね。よかったよかった」
俺たちが神殿迷宮を攻略して2日が経った頃。
俺たちはラスティの親父がいると言われている村へ向かう道中で、そのような会話をしていた。
最初は回復魔法で俺の傷を全て治そうとしていたのだが、どうも魔力を生成できない今の状態では、治りすぎて逆におかしくなる可能性があるとのこと。
そのため今は、薬草や包帯などを用いながら自己再生力を高めていた。
「そこまで深手じゃないから、別に治療しなくてもよかったのに。気にしすぎじゃないか?」
「GAO、なーに言ってんの! 傷跡なんて残ったら一生物なんだから、治せる時に治すのがいいの!」
「いや、だが……そもそも、手なんて誰も見んだろ」
「いやいや、意外と見られてるかもしれないよ? ウォーカーは顔立ちだけは良いんだから、他のことも気にしないと勿体無いって」
ラスティにはそう言われるが、別に傷跡なんて今に出来たものじゃないと俺は思っている。
服を着ているから分からないが、胸とか脚とかには、帝国との戦争でついた傷跡なんかあるんだし。これまではたまたま、目立つところに傷がつかなかっただけという話だ。
まぁ、戦場に出ている時は基本的に兜や鎧を着ていて、致命傷以外は傷跡が残らなかったでだけなんだが。それでもラスティは、少し気にしている様子だった。
「はぁ、分かった。でも本人が気にしてないんだから、ラスティもほどほどにしてくれ」
「GAOH……ウォーカーの言う通り、本人が気にしていないことを、ぐちぐち言っても仕方ないけどさ……」
「だろ? それともラスティは、傷ありの男は嫌いか?」
「んんー……」
ラスティは唸り声を上げながら、包帯の巻かれた俺の左手を撫でる。
「――嫌いじゃないかな?」
「おう、そうか。ラスティが嫌いじゃないなら、尚更このままでいい。……それよりこれからについて話そう」
俺はそう言って、腰に引っ提げている神器の破片を入れた小袋を見る。
「ラスティの親父さんに神器を直してもらうのは確定として、その後のことだ。……ラスティはどうする?」
「出会った時も言った通り、私は王城に入れればそれでいいよ。ウォーカーが何をしようが、私は止めるつもりも、文句を言うつもりもない」
ラスティはフードの位置を調整しながら言った。
俺の動きには関わってこない。
そう一線引いてくれる分には、こちらもやりやすい。
「分かった、なら問題は王都への行き方だな……ここから王都には、魔法を使わないと普通1週間は掛かる。かと言って、お金が無いから馬車も水路も使えんから、結局は徒歩行軍だな――ちなみに歩くと3週間。走ってもそれなりの日数だ」
「? それじゃあ、ウォーカーはどうやってここまで来たの?」
「俺は来る時ひとりだったからな。もちろん走って来た。大体2日くらいだな」
「GAOH……あのすっごい早い走りね……ぅ……思い出しただけでも酔いそう」
うぷ、とラスティが気持ち悪そうに口とお腹を抑える。
ガーゴイルとチェイスした時のことを思い出しているのだろう。あの時は空を飛んでくるガーゴイルに対抗するため、壁走りなんかもやっていたからな。内臓が左右上下、いろんな方向にシェイクされてしまったんあろう。
一応あれでも遠慮して走ったんだがなぁ……。
「長時間、ウォーカーに担がれるのは絶対無理、今度こそ吐いちゃう……できたら徒歩、徒歩にしてぇ……」
「だよな。いや、俺も流石にラスティを担いで走るのは非現実的だと思っていたところだ。仕方ない、徒歩で行こう」
できれば急ぎたかったのだが、これが最速というのなら諦めもつく。王都行きの馬車や船に乗るための銭を稼ぐのだって、何日かかるかわかったものじゃ無い。
それに俺には、ルリス王女の婚儀に関して意外と確信めいたものがあった。
それは、彼女とイドヒとの婚儀には、それなりの日数がかかるだろうと言うことだ。
イドヒも騎士団総長になってから日がまだ浅い。奴も総長の業務に慣れるまで、日々忙殺されていることだろう。
ルリス王女は頭がいいので、彼女は彼女で婚儀を先延ばしにしていそうである。結婚はまだしたくないって、最近もぼやいてくらいだしなぁ……方法としてはやはり、王室離脱のための儀式に時間が掛かる、とかだろうか。
『すみません。私って体が弱いので、婚儀までに時間が掛かりそうです』
なーんて、イドヒに言っていそうだ……いや、確実に言ってるに違いない、しかも満面の笑みで。俺の見立てでは、婚約が決まってから2ヶ月くらいは引き伸ばしそうってところかな。
俺が追放されてから、現在1週間と3日目。
よし、まだ余裕はある。
王都へ向かう道中が長いのは、俺としても非常に都合がいい。彼女をどうやってイドヒから助け出すか、考えないといけないし、作戦を練る時間に回そう。
今ある最有力案としては、イドヒ闇討ち計画なんだが。
「あ、ウォーカー着いたよ」
「んあ?」
俺があーでもない、こーでもないと頭を悩ませていると、ラスティが俺の袖を掴み、くいくいと引っ張る。
集中を自分の眼前に戻してみれば、ラスティの言う通り、いつの間にか着いていたらしかった。合計12棟ほどの掘っ建て小屋らしき家屋、それらが大きな柵に囲われるように立ち並んでいる。
これが、魔女の住んでいる村――。
「いらっしゃい、ウォーカー。ここが私の住む村、マトークシのベイベリー大森林が誇る、バーモット村だよ」
そうラスティはにこっと笑うと、俺の腕を引いて村に入るのだった。
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