17.魔女との冒険は終わり、次に進む




 神殿迷宮の入口扉は出口の役目も担っている。

 当然だ。あれは神殿迷宮と俺たちがいた場所を唯一繋ぎ止められる扉なのだから。元の場所に帰るためには、同じ経路を辿って帰らなければならない。

 

 故に入ってきた入口扉からマトークシの森林へと戻ると、あら不思議。

 さっきまでこの森の異物としか言い様がなかった入口扉が、あっさりと崩れ落ちてしまうのでした、と。

 

「……分かってたことだが、こうして見ると儚いな」

「GAO。神殿迷宮は一度攻略されると、魔力補填のため消滅するからね。入口扉もこうやって崩れるんだよ」


 神器がどのような形であれ、攻略したことには変わりないってことか。

 もしくは、ラスティが言っていた通り、守護者を倒すことこそが、神殿迷宮を崩壊させる原因なのかもしれない。


 俺は考古学者じゃないから、これ以上考えても詮無いことなので、ひとまずは目下、問題となるこれをどうしたものか考えるべきだろう。

 

「にしても、残ったのがこれだけって……」

「拾い集めてようやっと小袋ひとつ分の破片……ひもじいね……」


 俺がそう呟くと、ラスティも持っていた小袋を掲げて、嘆息してみせた。


 


 ゴーシューらを退けた後のことである。


 その後も俺達は、神器を探すための探索を続けた。

 しかし、新しい道が開かれることもなく、特になにかのギミックが作動することもなく1時間。ずっと彷徨い続けて疲れたのか、ラスティが徐ろにバエルの死体を弄りだすと、衝撃の事実が判明したのだ。

『うわ、最悪! 神器どこにもないと思ったら、バエルの身体に入ってるじゃん!?』

『なんだって、それは本当か!?』

『ちょ、ムゴ……ウォーカー、これはやりすぎ……! 損壊が激しすぎるって!』


 まぁ、そこからの流れなんて誰でも想像がつくことだろう。

 そうである。俺が容赦なしに、すぱっと斬り飛ばした山羊頭に神器が入っていました。しかも、ダメージがでかすぎて、神器も一緒に粉微塵一歩手前のような状態での採取となりました。

 …………詰んでねーか、これ?


「まぁ、元気だしなって! 落ち込んでも、なにも進まないしさ!」

「でもなぁ……これじゃ解呪できないんじゃないの?」

「うぐっ」


 ラスティが書いた文字に俺がツッコミを入れると、彼女も痛いところを突かれた、という表情をした。

 やっぱ、心に響かないもんだね……根拠のない慰めって。

 

「あ、諦めるには早いよ、ウォーカー!」


 しかし、どうやらラスティには、まだ考えがあるらしかった。

 俺の肩をぽんぽんと叩くと、慌てた様子で背嚢から何かを引っ張り出そうとする。

 その際、背嚢には乱雑に物が入っているせいか、さっきちゃっかり集めていたバエルの解体素材が、あたりに散乱した。何でもこの素材たちは、魔法薬開発の材料にするとか、何とか。


「えっと、この辺に仕舞ってたはず……あった、あった!」

「? それって地図か――――ハッ!」


 と、そこで俺は息を呑む。

 もしかして、またラスティが書いた地図じゃ……!

 いや、あれはラスティには読めるんだし、俺が読むわけじゃないなら、害はない……強いていうなら、ちょっと解読しようとした時に酔いそうになる程度だ……!

 大丈夫、大丈夫の、はず!


 俺は恐る恐る、体を震わしながらラスティが広げる地図を見やる。うわわわ、恐ろしい絵じゃないといいけど……。

 

「GAO! これは私の住む村への地図だよ!」

「あれ……呪いの絵じゃない……? まるで、まともな地図だ」

「今ものすごい失礼なこと言った?」


 ラスティが確実にイラッとしたのが伝わった。

 だって、フードの奥で青筋を浮かべてるんだもん。表情は笑っているけど、目が笑ってないってこう言う顔を指すんだな。器用な表情筋の使い方をしていらっしゃる。


 でも、とりあえず一旦俺の失礼な発言は置いておいて、説明を続けてくれるらしい。

 ラスティが地図の上をなぞりはじめる。


「はぁ、ウォーカーの笑えない冗談は無視するとして、壊れた神器は私の村に行けばなんとかなるかも知れない」

「ラスティの村? あんたの住んでるところか」

「GAO。その村には私のオヤジがいるんだけど、そのオヤジはちょっとした有名人なんだ。素材さえあれば、剣でも、鎧でも、マジックアイテムでも、日常品でも、どんな物だって直せると噂の凄腕修繕師! そのオヤジなら――――」

「神器を直せるかもしれない……!」

「GAOGAO♪ だから私の村に行って、お願いしてみる価値は全然あると思うよ!!」


 ラスティが地図を仕舞いながら、ニコニコとフードの奥で笑う。

 

「うっしし、もうちょっと私たちの冒険は続きそうだね、ウォーカー。さっきのシツレイな言葉に対するお仕置きは、村に着くまでお預けってところかな」

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