第19話 亀山結衣菜との撮影 3

「じゃあ撮影を始めるよ」


 雪菜と話しながら過ごしていると、撮影開始の声がかかる。


「優香さん、お兄ちゃんのこと、お願いします」

「はい。必ずお守りします」


 雪菜の発言に真剣な表情で応える亀山さん。


「じゃあ始めようか」


 こうして旅番組の撮影が始まった。




「おはようございます。モデルの亀山結衣菜です。今日は愛知県名古屋市にやってきました」


 亀山さんがカメラに向けてオープニングトークを披露する。

 そして今回の番組の趣旨を説明した後…


「では今日のゲストをご紹介します。今日はモデルの青葉さんに来ていただきました」

「おはようございまーす!」


 紹介のタイミングに合わせてカメラの前に登場する。


「今日はひつまぶしの有名店『雪だるま』目指して旅をしますが、青葉さんはひつまぶしを食べたことはありますか?」

「俺はないですね。なのでとても楽しみです」


 などなど簡単な話を行い、オープニングトークを盛り上げる。


 そんな会話をいくつかした後…


「では『雪だるま』を目指して出発です」


 俺と亀山さんは現在地である名古屋駅を出発した。




 名古屋駅を出発し、まずは情報収集のため、ブラブラと街を歩く。


「青葉さんは愛知県に来たことはありますか?」

「いえ、一度もないですね」


 前世では数回ほど来たことあるが、この世界では一度も来たことがない。

 そんな他愛のない話をしながら撮影を行う。


 すると…


「きゃぁぁっ!青葉くんよ!」

「イケメンすぎっ!声かけてもいいかな!?」

「残念だけどそれはダメね。モデルの結衣菜さんがいてカメラも回ってるわ」


 女子大生と思われる2人が俺たちを見ながら話していた。


「亀山さん。あの女性たちに『雪だるま』の場所を聞いてもいいですか?」

「そうですね。私も同行します」


 亀山さんからの許可をいただき、俺は2人のもとへ向かう。


「あの、すみません」

「「は、はいっ!」」


 声をかけられるとは思わなかったのか、“ビクッ!”と驚く。


「驚かせてすみません。少し尋ねたいことがあって」

「なっ、何でも聞いて!」

「私たちが何でも教えてあげるよ!」


 快く引き受けてくれた女性たち俺は「ありがとうございます」と言って笑顔を向ける。


「「はうっ!」」


 すると突然、心臓を抑え始める2人。


「だ、大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫……男の子の笑顔を見たのが人生で初めてだったから……」

「あ、青葉くんのカッコ良さに心臓がドキドキ言ってるだけだから……」

「そ、そうですか」


 顔が赤くなっているが体調には問題ないみたいなので、俺は話を続ける。


「今、とある旅番組の撮影中で『雪だるま』というひつまぶしの有名なお店を探してます。どこにあるかご存知ですか?」

「私は知らないねぇ」

「私もー」


 そう言って首を振る2人。


「そうですか。お時間いただきありがとうございます」


 俺は2人に頭を下げて感謝を伝えた後、今度は何気ない会話をする。


「ちなみに、お2人は今からどちらに行かれるのですか?」

「私たちは今からカラオケに行くの」

「日頃のストレスを発散するためにね!」

「カラオケですか。俺もカラオケは好きですよ」

「ほんと!?じゃあ今度、私たちと一緒にカラオケに行こ!」

「うんうん!その後は私の家で……」

「こ、これ以上はダメです!」


 俺たちの会話に亀山さんが乱入して止めに入る。


「あちゃー。止められちゃった」

「さすがに家に呼ぶのは速かったかー」


 そう言って笑う2人。


「青葉くん!また会った時はカラオケ行きましょ!」

「その後は私たちと気持ちいいこともしましょうね!」


 そして笑顔で立ち去る。


「ありがとうございます、助かりました」

「いえ、ボディーガードとして当然です。しかし……本当に怖くはなかったのですか?」

「……?全く怖くはなかったですよ」


 あのまま迫られても最悪ダッシュで逃げることはできたので、全く恐怖を感じなかった。

 その言葉を聞き、「良かったぁ……」と安堵の表情を見せる。


「実は少し助けるのが遅くなってしまったと思いまして」


 俺が『雪だるま』について聞いた後雑談に移ったが、移った瞬間、すぐに2人が俺を恋愛対象として迫ってきた。

 番組を盛り上げるため、ある程度は街の人たちとの交流が必要となる。

 それにより中断の判断が遅れてしまったのだろう。


「なので先ほどのことで恐怖を感じてしまったら、撮影が中止となり、家の者へ連絡されるかと……」


 昔何があったかは知らないが、ボディーガード失敗をかなり恐れている。

 おそらく撮影が中止になる以上にボディーガード失敗という烙印を押されたくないのだろう。


「何度も言いますが、女性と関わることで恐怖を感じることはありません。実際、先ほどのことが何度起きようと怖くない自信があります。あ、もちろん、刃物とかを持って来られたら恐怖しますが」


 そう前置きした俺は1番伝えたいことを伝える。


「だから常に気を張って怖い顔をしながら撮影に臨まないでください。亀山さんは綺麗な女性なので笑った方が可愛いですよ」


 そう言って俺は亀山さんに笑顔を向ける。


「っ!そ、そこまで言われたら……も、もう少しだけ肩の力を抜きます……」


 少し頬を染め、照れながらも俺の言葉を受け入れてくれる。


(本当に肩の力を抜いてくれるかは分からないけど……まぁ、その時は何度でも伝えよう)


 そんなことを思いつつ、撮影を再開した。

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