第8話 写真集の撮影 5

 撮影が始まる。


「よし、まずはあの椅子に座ってくれ」


 との指示をもらい、俺は指定された椅子に座る。

 すると女性カメラマンが俺の近くに来て、カメラを構えた。


「青葉さんのカッコいいところは私がバッチリカメラに収めます!」

「お願いします」


 再び頭を下げてお願いし、社長からの指示を待つ。


「よし。まずはカメラ目線で笑顔を頼む」

「では撮りますよー!カメラ目線で笑顔をください!」


 とのことで、俺は指示通り、カメラ目線で笑顔を見せる。


「はぅぅ〜」


 するとカメラマンの女性が突然後ろに倒れた。


「だ、大丈夫ですか!?」


 俺はすぐさま椅子から立ち上がって倒れた女性スタッフのもとへ向かう。

 そして手を後頭部に回して頭を抱える。


「大丈夫ですか!?」

「うぅ……あ、青葉さんの顔が目の前に。なるほど、ここは天国ですか……」


 とか訳の分からないことを呟いた女性が力無く気絶する。


「………マジかよ。まだ1枚しか写真撮れてないぞ」


 普段、男性をカメラのレンズ越しに見ることがないため耐性がないとは思うが、ワンシャッターで気絶するのは異常だ。

 そんな中、社長が駆け寄り、他のスタッフへ女性の介抱をお願いする。


「次のカメラマンを」

「はいはーい!」


 社長の呼びかけに元気よく1人の女性スタッフが声を上げる。


「次は私が撮るよー!」

「お願いします」


 再び頭を下げてお願いした俺は椅子へ戻り、社長からの指示を待つ。


「次は青葉くんを下から撮ってくれ。青葉くんは笑顔ではなく“キリッ”としたカッコいい表情で」


 との指示をもらう。


「青葉くーん!こっち見てー!撮るよー!」


 俺は女性スタッフの指示通りカメラに目線を向け、“キリッ”とした表情を作る。


「ぐふっ!」


 するとカメラマンの女性が鼻を抑えて倒れる。


「だ、大丈夫ですか!?」


 再び急いでカメラマンに向かい、先ほどと同じように頭を抱える。

 そこには鼻血をダラダラと流して幸せそうな顔をしたカメラマンがいた。


「も、もう悔いはありません。さ、最後に青葉くんから抱きしめられたから……ガクリっ……」

「………」


 本気でそう思っているようで、幸せそうに項垂れた。


「これ、撮影大丈夫ですか?」

「……ヤバいな。想像以上にヤバいぞ。実際、カメラマンじゃないスタッフたちもふらふらしてるからな」


 どうやら俺を直視し過ぎたことで、周りにいるスタッフたちも戦闘不能間近の状態らしい。


「これは青葉くんに対して耐性のある鮫島に撮ってもらうしかないな」

「わ、私ですか!?」


 近くにいた鮫島さんが大きな声で驚く。


「あぁ、カメラマンじゃないから良い写真を撮るのは難しいと思うが、その辺りは青葉くんに協力してもらい、何度も写真を撮らせてもらおう。できそうか?」

「できるとは思いますが……」

「よし、早速準備に移ろう」


 歯切れの悪い返答だったが、社長は気にしてないようで、早速準備に移る。


「俺は何度でも鮫島さんに付き合いますから。一緒に良い写真集にしましょう!」


 カメラマンという慣れない仕事をする鮫島さんの緊張を少しでもほぐすため、声をかける。


「………ほんと青葉様はお優しい方です。そんな青葉様を穢さないよう、しっかりと自分を律してみせます!」


 すると気合いのこもった返答が返ってきた。


「お、お願いします?」


(写真を撮られるくらいで穢されることはないと思います)


 そんなことを思いつつ再び椅子に座る。

 その間、鮫島さんがカメラの使い方を指導されていた。

 待つこと数分。

 準備ができたようで、鮫島さんから声がかかる。


「青葉様、カメラに向けて笑顔をお願いします」

「はいっ!」


 そう返事をして“にぱー!”っと満面の笑みを向ける。


 “パシャっ”


「では次に“キリッ”とした表情をお願いします」


 そう指示をいただいたので“キリッ”とした表情をカメラに向ける。


 “パシャっ!”


「では次に……」


 等々、鮫島さんから次々と指示をもらい、俺は指示通りに動く。


(おぉ、鮫島さんになってから撮影がスムーズだ。さすが鮫島家。男性への耐性が半端ないな)


 そんな感想を抱きながら撮影を行い…


「よしっ!撮影終了だ!お疲れ様!」


 無事に撮影が終わる。


「ふぅ、ありがとうございました。鮫島さんもカメラマンお疲れ様でした」


 そう鮫島さんに伝えると、なぜか鮫島さんが横に倒れる。


「鮫島さん?」


 俺は急いで鮫島さんを支え、鮫島さんが床に倒れるのを防ぐ。


 そして鮫島さんの顔を見ると口と鼻から血を流していた。


「あ、青葉様……良かったです……」

「鮫島さん!?何があったんですか!?」

「わ、私が青葉様を襲わないよう、舌を噛んでおりました。あ、青葉様があまりにもカッコ良過ぎたので噛む力が強くなってしまったようですね……」


 グッタリしながら鮫島さんが呟く。


「鮫島。お前はやっぱり鮫島家の人間だ。家の者には『鮫島家の名に恥じない立派な女性だった』と伝えておこう」

「鮫島さんを殺さないで!」


 そんな感じで、無事撮影は終わった。

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