第5話 写真集の撮影 2(鮫島視点)

〜鮫島優香視点〜


 森本青葉様は不思議な男性だ。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「「「お、おはようございます!」」」


 先程、女性スタッフが倒れてくるという恐怖を味わったにも関わらず、すれ違う女性スタッフ全員に挨拶をしている。


「さっき男の子から挨拶されちゃったよ!しかも超イケメンの!」

「私、男の子から挨拶されたの初めてー!」

「もう一度すれ違っても挨拶されるかな!?」


 等々、青葉様の対応にすれ違った女性スタッフはハイテンションとなる。


(意味もなくすれ違う女性スタッフが多いですね。撮影準備は終わってるのでしょうか?)


 そんなことを思ってしまうくらい、先程から青葉様の横を通り過ぎる女性スタッフが多い。

 理由は言わずもがな青葉様の対応だろう。


 すれ違いざまに挨拶をする男性など聞いたことがない。

 それに加え、話しかけられた際は嫌な顔せずに対応していた。

 そんな話を聞いたら私でも意味もなく青葉様の横を通り過ぎるだろう。

 ちなみに、その様子を見ていた雪菜様が青葉様を注意していたが、笑顔で女性スタッフの対応をする青葉様を見て、いつの間にか注意をしなくなった。


(初めて会った時も不思議な方だとは思いましたが、まさか女性と関わることに一切恐怖を抱いてないとは…)


 そんなことを思いつつ、私は青葉様と初めて会った日のことを思い出す。


(私と東條社長が青葉様の自宅を訪れた時もわざわざ玄関まで出迎えに来てくれました。しかも礼儀正しく言葉遣いは丁寧。こんな男性、21年間生活してる中で初めて見ました)


 鮫島家は生まれた時から男性に対しての耐性をつける特殊な訓練をしており、将来は男性のボディーガードとして働くケースが多い。

 そのため耐性を得た私は数々の男性と関わり、護衛してきた。


(この世界の男性は大きく分けて2パターンいます。女性に対して恐怖心を抱いている男性か、生まれた頃から優遇されて育ったことによるワガママで横暴な男性のどちらかです)


 前者は耐性を持っている私でさえも恐怖し、会話すらしてくれない男性。

 後者は私のことをメイドか何かと思い、私を顎でつかう。そして何か嫌な思いをすればすぐに私のせいにする。

 そんな人たちしかいないと思っていた。


(ですが青葉様は今まで関わった男性とは違うようですね)


 私とのコミュニケーションは良好で、いつも爽やかな笑顔を見せてくれる。

 それに加え積極的に女性スタッフとコミュニケーションを行い、女性スタッフに対して嫌な顔一つしない。

 こんな男性は初めてだ。


(しかも女性スタッフが気絶して倒れた時は私の失態を許してくれました)


 まさか青葉様が積極的に女性スタッフと関わるとは思っていなかったため一歩目が遅れてしまい、青葉様には恐怖を与えてしまった。

 しかし青葉様は何でもないような素振りを見せ、私の失態を許してくれた。


 それだけでなく…


『女性とトラブルになることもあるかもしれませんが、俺は絶対に鮫島さんのせいにはしません。だから四六時中気を張らなくて大丈夫ですよ』


 とまで言ってくれた。


 今までは防ぎ用のない理不尽な出来事もボディーガードである私のせいにする男性が多かったため、その言葉には本気で驚いた。


(マネージャー件ボディーガードという仕事がなければ独り占めしたいくらい青葉様は素晴らしい男性です。私みたいな可愛くない人を青葉様が好きになってくれるとは思いませんが)


 仕事一筋で愛想のない私のことを好いてくれる物好きな男性などいないことは理解している。

 実際、父親と仕事で関わる男性しか会話をしたことがなく、現在の私は彼氏いない歴=年齢だ。


 そんなことを思い、少し気分を落としていると…


「ここのスタッフさんって綺麗な女性ばかりですね。鮫島さんを筆頭に」


 青葉様が耳を疑うような発言をした。


「私が綺麗な女性……ですか?」

「はい。とても綺麗で美人だと思いますけど……」


 青葉様が首を捻りながら私のことを綺麗で美人だと言う。

 その言葉に何故か嬉しい気持ちが湧き起こる。


「あ、ありがとうございます。そのような言葉を言われたのは初めてなので……」

「えっ!それは関わってきた男性の見る目がないですよ!だって俺は鮫島さんのこと美人でとても綺麗な女性だと思ってますから!」

「〜〜〜っ!」


 とても爽やかな笑顔で言う青葉様の顔を凝視することができず、咄嗟に視線を逸らす。


(お、落ち着け私っ!青葉様を襲ってはダメです!)


 青葉様を素晴らしい男性だと認め、可能であれば独占したいと思ってしまったことで異性として意識してしまう。

 その結果、『抱きしめたい』『青葉様の身体に触れたい』などの欲が沸々と湧き起こる。


(私もあの女性みたいに気絶したかった!)


 男性に対する耐性を持っていることが功を奏したのか、至近距離からイケメンスマイルを見ても気絶することはなかった。

 そのため理性をフル動員し、襲いたくなる気持ちを抑えなければいけなくなった。


(青葉様はお守りする方っ!襲ってはいけません!)


 そう心の中で呟き、なんとか抑え込もうとしていると…


「さ、鮫島さん?どうかしましたか?」


 青葉様が私の顔を覗き込んできた。

 シミ一つなく整った顔立ちが目の前に現れ、再び襲いたくなる。


「ちょ、ちょっとお手洗いに行ってもよろしいでしょうか?」

「……?はい、構いませんよ」

「失礼します」


 この欲を抑えるには距離を置くしかないと判断した私は、雪菜様に青葉様のことを任せてその場から離れる。


 しかし、青葉様の褒め言葉と笑顔が脳裏から離れず、結局、青葉様のもとへ戻ることができたのは10分後だった。

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