2章 写真集撮影編

第4話 写真集の撮影 1

【2章開始】


 芸能プロダクション『向日葵』に所属してから1週間が経過し、写真集の撮影日を迎える。


「お兄ちゃんのことは絶対守るからね!」

「私もマネージャー件ボディーガードとして青葉様をお守りいたします。安心して撮影に臨んでください」

「あ、ありがとうございます」


 鮫島さんの車で撮影現場に到着した俺は、雪菜と鮫島さんに両サイドを固められながら現場に入る。

 すると作業していた女性スタッフたちが一斉に俺たちの方を向く。


「えっ!もしかしてあの人がウチの事務所に所属したモデルさん!?超イケメンなんだけど!」

「あんなイケメン見たことないっ!絶対、後で声かけよ!」

「ダメよ。そんなことしたら絶対あの人を襲ってしまうわ」

「た、確かに!それで事務所を辞められたら困る!」

「うぅ……遠目から見るだけで我慢するかぁ……男子って基本的に女子が苦手だからなぁ」


 そんな声が聞こえてくる。


「誰も話しかけて来ませんね」

「当然です。『青葉様が事務所を辞めた場合、その原因となった人全員に罰を与える』と、東條社長が社員全員に伝えてますから」

「それなら安心ですね」

「いや、全然安心じゃないからね?それでも襲う人はいるんだから」

「雪菜様の言う通りです。青葉様は女の子の性欲を舐めてますよ」

「せ、性欲……」


 美人である鮫島さんからそのような言葉が出てきたことに“ドキッ”としてしまう。


「そうだよ!お兄ちゃんは女性恐怖症が治ってから危機感がなさすぎるよ!もっと自分の身を大切にして!」

「お、おう……」


 前世だと男性に言う言葉ではないので違和感しか感じない。

 そんな会話をしていると“パラパラっ!”と俺の前に数枚の紙が落ちてくる。

 そのため周囲を見渡すと、1人の女性が移動してる最中に紙を落としたようで、一所懸命落ちた紙を拾っていた。

 俺はその様子を確認し、落ちた紙を拾ってその女性のもとへ向かう。


「あ、お兄ちゃんっ!そんなことしたら……」

「青葉様っ!できる限り他スタッフとの接触は控えていただき……」


 と、後ろの方から聞こえてくるが紙を手渡すくらいで襲われたりしないと思い、俺はその女性に話しかける。


「はいどうぞ」

「あ、ありがとうございます……って男の子っ!」


 俺から紙を受け取ろうとした女性が飛び跳ねるように驚く。


「ど、どうしましたか?」

「い、いえ!ありがとうございます!」

「どういたしまして。次は落とさないよう気をつけてくださいね」


 俺は頑張って働いている女性に笑顔で伝える。


「はぅぅ〜」

「ちょっ!」


 すると“パタンっ!”と俺の方に倒れて来たため、俺は怪我をしないよう女性を受け止める。


「………」


 至近距離の笑顔に耐えられず気絶してしまったようだ。


「あの男の子、女性に話しかけたよ!」

「しかも倒れた女性を受け止めてる!そんな男子、初めて見た!」

「落ちた紙を拾って手渡すだけでなく、女性に対して気遣いもしてる!」

「えぇ!今時珍しい肉食系男子よ!漫画の世界にしかいないと思ってたわ!」


(当たり前のことをしただけで肉食系男子かよ!)


「青葉様っ!大丈夫ですか!?」

「あ、はい。問題ありません。それより倒れた女性の介抱をお願いします」


 俺は鮫島さんに依頼して倒れた女性の介抱をしてもらう。


「お兄ちゃん!何度も言うけど危機感なさすぎ!もし気絶してなかったらお兄ちゃんが襲われてたかもしれないんだよ!」

「大丈夫だ。襲われたとしても逃げる準備はしてたから」

「それでも危ないのには変わりないよ!だからできる限り接触は控えてね!いい!分かった!?」

「お、おう。できる限り控えよう」


 ものすごい迫力を感じ、俺は素直に頷く。

 もちろん、接触を控えるつもりはない。

 そのタイミングで倒れた女性の介抱を他スタッフへお願いした鮫島さんが俺のもとへ駆け寄る。


「申し訳ありません、青葉様。私が未熟だったため女性が倒れてくるという恐怖を与えてしまいました。鮫島家に今回の件を報告していただければ相応の罰が下されますので……」

「これくらい何とも思ってないので鮫島家には連絡しませんよ」


 女性が急に倒れたこと事態は恐怖だったが、倒れた女性の感触を味わうことができたのでむしろ役得だった。

 しかも倒れた女性はかなり可愛かったので文句などあるはずもない。


「………」


 しかし俺の言葉を理解できないのか、鮫島さんは俺を見て固まっている。


「……?どうかしましたか?」

「い、いえ。自分の失態から重い罰を覚悟していたので。青葉様の寛大な心に感謝します」


 そう言って綺麗な姿勢で頭を下げる。


「お兄ちゃんが勝手に動くから鮫島さんは動けなかったんだよ?お兄ちゃんが女性に臆することなく話しかけるなんて鮫島さんも思ってなかったんだから」

「そ、そうか……」


 女性に話しかけるだけで肉食系男子と認定される世界なので臆することなく話しかける男性は稀で、ほとんどの男性が女性に対して恐怖を抱いている。


「鮫島さん。俺は女性に恐怖を感じることなんてありませんので今みたいに話しかけることもあります。その際、女性とトラブルになることもあるかもしれませんが、俺は絶対に鮫島さんのせいにはしません。だから四六時中気を張らなくて大丈夫ですよ」


 俺のせいで鮫島さんが責任を取る必要はないので、鮫島家に連絡することはない。

 というか鮫島さんに襲われても連絡しないと思う。

 そう告げると何故か再び鮫島さんが固まった。


「……どうかしましたか?」

「いえ。青葉様は不思議な方ですね」


 そう言って鮫島さんの口角が上がる。


「っ!」


 初めて見た鮫島さんの笑顔に、俺の心臓は“ドキッ!”と跳ねる。


(ヤ、ヤバい。普段クールな女性が時折見せる笑顔ってヤバいぞ。俺の方が襲いそうになったんだが)


 そんなことを思いながら鮫島さんから視線を逸らした。

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