第13話 俺のせいになるんじゃないのか?
――『空森冬空』が二ヶ月後に八重石を殺害する。
そのための計画が書かれているのがこのデータだと、俺は最初に理解した。
でもすぐに、これが『空森』の考えた気持ち悪い作り話だと思いついた。だって箱にも書いてあったし、データの名前もそんな感じだった。
ああ、絶対そうだ。『空森』は小説好きをこじらせたヤバいやつで、妄想しすぎた結果、こんな気持ち悪い設定まで作りだしたんだ。
……だとしても、これは本当に大丈夫なものなのか。
まず、盗撮したみたいな写真が貼られてることもだけど、そこからずっと続いてるページには、八重石の家族関係だとか生い立ちだとか……今の生活リズムまで、全部が、絶対本人だって知らないくらいの細かさで書かれていた。
これが全部本当のことなら、殺害どうこうが作り話だったとしても、『空森』は普通に犯罪者なんじゃないのか。
――そこで俺は、突然物凄い寒さを感じた。
「戻る」の文字を押そうとする指が震えてるのに気付いて、怖いのと焦ってるのに気付いた。
震えながら、俺は他のデータも開いてみる。
文字ばっかり。改行が多くて、カギ括弧で囲まれてる文章。どのデータも、ぱっと見で小説だとわかるものだった。他の端末も開いてみる。指紋もパスワードも簡単に解除。ファイルの名前は「プロット」。中にはまたタイトルっぽい名前のデータが並んでいて、今度は箇条書きの文章がずっと続いてるものだった。
他のも、全部ちょっとずつ読んでみたけど、アレとは全く関係ない内容に見えた。何かの書類をスキャンしたみたいな形式になっていたのも、アレだけだった。
もう一度開いてみる。やっぱり表示される八重石の顔。
そのときなんとなく時計を見てみると、もう夜中の二時前。で、明日も朝は六時起き。
これ以上見てたってとりあえず仕方ないから、俺は端末を箱に、全部を元あった通りに戻して、ベッドの下に押し込む。
……それで一旦ベッドの上で目を瞑ってはみたけど、眠くなるわけがなかった。
てか、結局あれはなんだったんだ。
全部『空森』の悪ふざけなのか、『空森』がヤバいストーカーなのか、それか本気で『空森』は八重石を殺そうとしているのか、
「どれにしても『空森』ヤベぇやつじゃん……」
思わず声に出る。でも、それはアレがベッドの下にある時点で確定だろ。
あとはもうどれだけヤバいかって話だけど、
「……あれ?」
そこで俺は、気付いてしまった。
今、もしアレが誰かに知られてしまったら、それ、俺のせいになるんじゃないのか?
ベッドの下に同級生の殺害計画書みたいなのを隠してる奴。色々疑われないわけがないし、最悪殺人未遂かなんかで捕まるんじゃないのか。
もしかしてこれ、思ってるよりマズい状況なんじゃない?
いや、待て待て落ち着け。とりあえず、アレがバレてない間は、まだ大丈夫だ。あんだけしっかり隠してあるんだから、まず普通にしてたら見つかるわけはない。だから、とりあえず大丈夫。
……でも、だからって俺は、これをほっといていいのかって話だ。
いきなり警察っていうよりは、まず金剛くらいに報告するべきなんじゃないのか。
――ってどうやって? なんか俺の部屋に八重石さん殺すための計画書があったんですけど、って? 意味わかんねぇだろ普通にヤベェ奴認定で終わるわ。
……いっそ、全部言ってみるか。計画書は見つけたんですけど、そもそも俺パラレルワールドから来てて、これ作った奴とは別人なんですよ、とか。結局意味はわかんねぇし、全く信じてもらえる気がしない。良くて病院に逆戻りで終わる気しかしない。
やっぱり無理だ。絶対これは、簡単に他人に知られていい話じゃない。知られてどうなるかが俺にはわからない。モトナリに相談するくらいならいいかもだけど、それで大きく変わるわけでもないから、とりあえず保留。
てことで、しばらくは俺一人で考えることにする。
まず最優先が、アレがどこまで本気なのかということ。色々『空森』について調べながら、それを探っていこう。
……できれば『空森』がただの変人か変態であって欲しい。それはそれで俺としてはなんか嫌ではあるけど、本気で殺そうとか考えてるよりは、絶対マシだ。そんなのは絶対ヤバいし狂ってるし、ありえないし、普通じゃない。
……でも万が一、もしも、アレに書いてあった殺意が本物だったとしたら、それはそれでなんとなくおかしい気もする。なんでわざわざあんな書類みたいなのを作った? なんでそこに手書きの署名があった?
そこで時計を見ると、もう二時は回っている。
どうせわからないことをこれ以上考えたって仕方ない。そんなことより今はちょっと早く寝なければ、明日を耐えられないかもしれない。いやマジで。それくらい今日もキツかったんだって。
腕を目の上に置いて、もう一度、考えたって仕方ないと自分に言い聞かせる。あとは、出来るだけ何も考えないように。
……こうやって、無理矢理寝よう思えば大体いつでも寝れるのが、実は俺の特技だったりした。
しょーもないから、自慢しようとは思わないけど。
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