3話 生きる意味

「見つけた!」

「はぁ!まじかよ、どうなってんだ!」


 私は男に向かって走り出していく。


『告、拘束のため魔法シャドウバインドを使用』


 前と同じように男の影が動き出し、男を拘束しようとする。だが、


「あっぶね!さっきのようにはいかねーよ!」


 男はジャンプし、影を手に持ってた剣で切っていく。


『失敗、改善により魔法シャドウハンドを使用』


 次の魔法は自分の影、さらに周りの影から手の形をしたのが男に向かっていく。その数100を超える。


「うはっ、数多すぎだろ!ウィンドラッシュ!」


 男の魔法が発動し、数多の風の刃が影の手を撃ち落としていく。

だが、影の手は落とされた途端に再生していき、男を拘束するために向かっていく。


「はぁ?そんなのありかよ!」


 男はそう言いながらも手に捕まることなく避けていく。


「くっそ、これじゃいつかはスタミナがきれちまう。—————しかたねぇか、借りは作りたくねぇんだがな」 ピッ


 男が耳元で何かを操作する。


『はーい、こちらですが』

「おい天馬、今すぐこっちに来い!」

『おぉ、その声は荒くれじゃん。どしたん?』

「長官に帰還命令されてんのにガキがしつこすぎて帰れねぇーんだ!」

『ガキ?あぁ、例の子供ね。へー、もう目覚めたんだ』

「あぁそうだよ!こんのガキが俺をしつこく狙いやがって帰れねぇんだよ!」

『ふーん、で僕のところに助けを求めたわけね』

「ごちゃごちゃ言ってねーで早く来い!」

『うるさいなー。まぁ行ってあげてもいいけど借り一つね』

「黙ってきやがれ!」

『はいはい、すぐ行くよー』 ピッ


 話が終わった途端男が目の前から消えた。


「っ!どこ行きやがった!」

『告、主人の後ろにいます』


 その方向を見ると確かに男がいた。しかし、男以外にも別の男もいた。服装は他の人と同じだが、身長は170cm程で今まで見てきた中では1番細い。

 髪は水色で目はキリッとしており、メガネをかけた胡散臭い優男に見える。


「ふむ、あの子がそうなのかい?」

「あぁ、そうだよ」

「へー、写真で見たよりもずっと可愛いじゃないか」

「はぁ?お前何言ってんだ?もしかしてそっちの趣味があったんか?」

「失礼な、可愛いものに対して可愛いと言って何の問題がある!」

「まぁお前がどんな趣味を持っていようが俺には関係ないし、さっさと切り上げようぜ」

「そうだね、ここにいたら僕まであの子に嫌われちゃう」


 メガネの男はそう言いながら何かを膨れ上がらせる。


『告、対象が転移を使用し逃亡しようとしてます』

「っ!逃すな!」

『解、間に合いません』


 男達の姿が消えていく。


「じゃーねー!黒蜜ちゃん、また会おうねー!」

「次はぜってぇーぶっ潰す」


 姿が完全に消えた。



 ◆◇◆



 男達が消えた後は異様に静かだった。さっきまで戦闘なんてしていなかったように。


「……………」


 これからどうしよう。そんな考えが思考を支配している。あの男を殺すことが最後の願いだったのに殺せなかった。男がどこ行ったのかも分からず、探し出すのも難しい。男を殺せないのならあとは私自身を殺すだけだ。家族の元へ早く行かないと。


「声、私を殺して」

『…それはできません』


 声が私の指示を拒否した?


「どうして?あなたは私の指示には従うのでしょう?」

『是、私は貴方様の指示に従います。しかし貴方様の生命又は精神を殺すなどの指示は聞けません』

「…じゃあいい。自分で死ぬから」


 今私は屋根の上にいる。ここから落ちたら人間は確実に死ぬ。私は飛び降りようとして、止まった。


「…?」


 いや、体が動かなかった。私が飛び降りるのを怖がっている?いや、そんなことはない。今の私なら迷わずに飛び出せる。なら原因は別にある。


「…声、何してるの?」

『…………』

「…答えろよ!」

『…私の使命は貴方様のサポートです』

「答えになってないよ」

『…貴方様の生命を守ることが私に与えられた指示です』

「指示?私以外の指示って一体誰?」

『それはお答えできません』

「——は?」

『少なくとも15歳までは話せません。また15歳まで殺すことはできません』

「なんで?なんで15歳なの?そもそも貴方ってなんなの?」

『それも言えません』

「————はぁ」

『申し訳ございません』


 男も殺せない、自殺もできない。なら私はどうすればいいの?……このままここにいるよりは誰もいない場所に行こう。


「じゃあ、私を誰もいない所に連れてって」

『了、移動を開始します』


 

 ◆◇◆



「…ここは?」

『ここはによりに壊滅した街です』


 魔物。いつからか分からないが世界に突然魔物と呼ばれる怪物達が現れ始めた。魔物達は世界中の何もない所から現れ、住民や住宅を壊して殺していった。銃器や爆撃は魔物の皮膚を少し傷つけるだけでなんの足止めにもならなかった。世界が絶望に染まっている中、ある一人の人間が立ち上がって。

 その男は摩訶不思議な力を使い、魔物達を倒していった。その光景を見た人々は口々に言い始めた。


     あれは魔法ではないか?


 男は言った。魔物達により失われた人々を思い怒りを燃やしていたら魔法が使えるようになったと。

 この男に続く形で世界各地から魔法を使うものが現れ始めた。この魔法に目覚めたものは覚醒者と呼ばれるようになった。

 国は男の証言を元に研究を行った結果、感情が大きく揺れると魔法に目覚めやすくなると。だが、全ての人間がなれるわけではなく、才能がいるという事実もあった。さらに、目覚めた時の感情により使用する魔法が異なることもあった。

 怒りに燃えているなら殲滅の炎に、悲しみにくれているなら癒しの水に、優しさに包まれているなら守りの土に、魔物を絶滅されたいなら殺傷の風に、そんな風に人々は目覚めていった。

 このまま魔物どもに怯える日々はなくなる、人々はそう期待していた。だが、そんなことにはならなかった。ある時一際強い魔物が現れ、魔物達を率先して率いてきた。その勢いは濁流のごとく、街や人は流されていった。もちろん国もそのような事態になると予想し、覚醒者と連絡できる手段を確立し、集めることはできていたが、それでも魔物達の勢いは止まることを知らなかった。魔物達はいつ、どこで、どうやって現れるのか分からず、倒しても倒しても世界各国で突然現れる。街中で予測なしに爆弾が落とされ、さらに頻繁に訪れるようなものだ。なおのことタチが悪い。もちろん国は魔物の出現する法則性などを研究していたが、いかんせん魔物についての知識が足りなかった。さらに言えば魔法を使うための魔力に対してもこれまでの科学知識が通用しないので解明できていなかった。そんな中起きた魔物どもによる進行。精一杯国と覚醒者は抵抗したが、無限に湧き出てくる魔物達に徐々に押されていった。それらに対処できなかったり、やんごとなき事情があったりなど、国が都市を捨てる選択肢を取ったことで生まれた禁止区域。それがここであった。


「…確かにここなら誰もいないな」


 ここなら好都合だった。なぜ私が人がいない場所に来たのかは、ここなら死ねるかもと思ったからだ。声は私を殺さない。自殺しようとしても殺させない。なら何もせずとも死ぬ状況を作ればいい。

 ここなら食べ物がないのでいつかは餓死で死ぬと思う。そう考え私は眠りについた。



 だが何日経っても私は死ななかった。


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