2話 絶望の始まり

 そこはこの世のものとは思えないほど荒れていた。一面は真っ赤に染まっており、元の原型がわからないほど損傷の激しい肉塊が無造作に放り投げられ、鉄臭い匂いがどこまでも部屋を充満している。

 現実感がつかめず、目の前に起こっていることを脳が理解することを拒否している。

 

 「……………」


 一体何があったのか。ここは本当に自分の家なのか。もしかしたら、別の人の家に入ってしまって家族はまだ生きているのではないか。そんな淡い幻想をいつもの家の景色と嫌な匂いが打ち砕いていき、ドクンと心臓が激しく動くことで夢ではないことを告げてくる。



 ◆◇◆



 どれぐらいたっただろうか?立ち止まった状態で数分動かないでいると2階から物音がした。

 自分の家は木造の一軒家であり、2階は主に寝室などがある。そして、気づいたことがある。

 ここにある肉塊は2つあり、どっちとも大人サイズで、数が合わないのである。

 私には5つ離れた兄がいる。そう、まだお兄ちゃんを見ていないのだ。そんな一抹の希望が胸の中を支配していった。


「…お兄ちゃん」


 そんなことあるはずない。もしお兄ちゃんが生きているのならなぜこの家から離れるなり、警察に通報するなりしないのか。それがこの結末を物語っているのではないか。そんな考えが心の片隅にひっそり浮かんだが、そんなことは全て無視し一目散に駆け出していく。階段を上がりお兄ちゃんの部屋の前まで来る。

 ……扉をゆっくり開ける。


「……お兄ちゃん?」


 そこにはお兄ちゃんがいた。しかし、体はボロボロで血を垂れ流して床に倒れている。早く治療しないと命の危険があるくらいの状態であった。

 今すぐ駆け寄り、病院へ連れて行ってあげたい。

 しかし、そうはできない理由があった。


「ん?あぁ、やっときた」


 知らない男がいた。全身黒色でかためられた服装をし、フードを被っているが、こっちを見かけると外して私をジロジロ見てきた。髪は緑色にところどころ赤を混ぜた色をし、身長は180cmでガタイいい男が目をギロリとして兄のベットに腰掛けながら口を開いた。

 

「よう、元気か?」

「……だ……れ?」

「まぁ、誰だっていいじゃねぇか」


 男は立ち上がり、お兄ちゃんに向かって「どけ」といい蹴っ飛ばして私に近づいてきた。


「っお兄ちゃん!」

「うるさ!……ふーん、こんなガキがねぇ」


 男は意外なものを見るように私を見てきた。


「まぁなんだっていいいか。さっさと任務を終わらせるか」


 男はそう言って私の腕を掴み引っ張っていく。


「ッ!?—いっ、いや!」

「おら、暴れんじゃね!」


 男が引っ張っていくのに抵抗して私は近くの物を男に投げる。


 「うぉ、あっぶねーな!」


 男が避けるために体制を変えことで拘束がゆるまり、そのすきに振り解きお兄ちゃんの近くに行く。


「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

「…うっ」


 よかった!まだ生きていた!その事実に安堵し、脱出のために男を見ると、すぐそばまでやってきており、私に向かって手を伸ばし首を掴んできた。

 

「あっ、がっ」

「こんのクソガキが、大人しくしやがれ!」


 苦しい。息ができない。そのまま男は部屋を出るため歩き出していたが、歩みを止めた。いや、止められていた。


「—くろっ—みをっ—はな—せ」

「はぁ、まだ生きてやがったか」

「—おにい——ちゃ」


 すでに体はボロボロなのに、妹を救うため男の足を掴み、動きを止めていた。男はそれを見ながら面倒くさそうにしながら、何かを呟いた。その瞬間男から何かが膨れ上がった。


「はぁ、ウィンドカッター」


 そう呟くと、お兄ちゃんの首が宙を舞い、血飛沫をあげた。


「——え?」


 今、何が起きたのか、わからない。この瞬間に黒廻の中で理不尽なことが起きすぎ、混乱を極めた。

 なぜこんな目に遭うのか。なぜ両親が殺されたのか。なぜお兄ちゃんは死んだんか。なぜ自分は殺されないのか。なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ。

 そんな疑問が頭の中を巡った。そのさなか男の発した言葉で理由がわかった。


「あーあ、かわいそうに。このガキがいなかったらお前らがこうならなくて済んだものを」


 このガキ?ここには私しかいない。私がいたから家族が死んだ?私がいなかったら家族は生きていた?つまり、全ての原因は私?私がいたから。私が生きていたから?私が死ななかったから?私が?私が?私が?わたしが?わたしが?わたしが?わたしが?わたしが?わたしが?わたしが?わたしが?わたしが?わたしが?わたしが?わたしが?



  わたしが生まれてこなければよかった?


 何かが壊れた気がする。自分の中の何かが暴れ出している。何かが外に出ようとしている。その何かを抑えなければいけないと意志が訴えかけている。だか、そんな気は起きない。逆に抑えなければ自分を救ってくれる気がする。私を殺してくれる。

 それを思い切り外に押し出す。


「ん?うぉ、やっべ!もう目覚めやがったか!」


 男は何か言った後、私を投げ飛ばし「ウィンドシールド」と呟いた。その瞬間男の周りを半透明の壁が生まれた。それをぼんやり見ていると、私の中の何かが言った。


『了、を解除します』


 綺麗な女性の声がした。


『これより状況を把握します。…………………… …………………………………………把握完了。

主人の生命及び精神の不安定から私のスリープが解除されたと推測。これより主人の安定を行います』


 そう言った瞬間、自分の中の何かが落ち着き始めた。あぁ、これでは死なない。


『主人の安定が基準値に到達。これより指示を待ちます』


 それから声が聞こえなくなった。指示を待つ。特に指示して欲しいものはないと思っていたが、声を聞いて1つ思いついた。


「お?やっと落ち着きやがったか。全く、なんでこんなもんを回収しなきゃならねぇんだよ」


 男の声が聞こえた。そうだ、死ぬ前にしたいことがある。私のせいで死んだが、殺したのはこの男なんだ。なら、私が指示することは。


「この、男を、殺して!」

『了、自動迎撃モードに移行します』


 また、自分の中の何かが溢れ出した。さっきのより激しく、全てを壊す勢いで男に迫っていく。


「おわ!いきなり攻撃してきやがって」


 男はすんでの所で避けて行き、こちらをしっかり見てきた。


「やっべーな。こんな任務じゃねーと思ってたのに。サクッと誘拐して終わりだと思ったんだが。

まぁ動かない程度に痛めつけるか。ウィンドカッター!」


 男から何かが飛んできた。さっきは何も見えなかったが、今ははっきりと見える。そしてわかる。あの程度では私に傷がつかないことも。その刃が届く瞬間自分の中の何かが溢れだし、相殺していく。


「はぁ!おま、なんだよそれ!」


 男はそう言いながら私から距離を取るため部屋から飛び出していく。


「逃すな!」

『了、自動操縦モードへ移行します』


 声が何か言った途端、私の体が一人でに動き出した。そのまま男を追いかけて行った。

 追いかけると男は道路の真ん中に立っていた。


「流石にあんなせめーとこで戦えねぇし、ここなら思う存分楽しめるな!」


 男はこちらに向きながら何かが膨れ上がる。


「ウィンドソード!」


 男の手元に半透明の長剣が現れた。


「やっぱやるんなら直接の方がいいなっ!」


 男はそのまま距離を詰めてきて思いっきり剣を切り付ける。それに対し私は、


『脅威ではないと判断し、回避後反撃します』


 私の体が勝手に動き、最小限の回避をすます。


『確実性を取るため対象の拘束を実行。魔法シャドウバインドを使用』


 男の影が一人でに動き、男を拘束していく。


「は?なんだこの魔法?動けねー!」

『対象の拘束完了。これより殺害に移行します。

魔法シャドウランスを使用』


 周りの影が蠢き、鋭く尖った槍に変わり男を取り囲む。


「おーう、これはちょっとやべーかもな」

『発射』


 一斉に槍が飛び出していき、男を串刺しにしていく。


『………失敗』


 影が晴れるとそこには緑色の壁が男を取り囲んでいた。


「ふぃー、あっぶな。確実に俺を殺す気できたな」


 いつのまにか拘束していた影も解かれていた。


「これはもう、俺も殺す気でいかないとやべーな」


 男の中の何かがさっきよりも大きく膨らんでいく。


「死んでも恨むんじゃ『ピピ』—あ?」


 突然男の動きが止まった。


「んだよこれからだって時に」 ピッ


 男は耳元で何かを操作し、一人で喋り出した。


「なんだよ」

『やぁ。任務は順調かい?』

「んだよかよ、順調も何もあのガキが目覚めやがって今戦ってんだよ」

『——へー、目覚めたんだ』

「あぁ、なんなんだよこのガキは」

『あれ?説明受けてない?』

「あぁ、あの眠くなる会議のことか?」

『……寝てたんだね』

「おう、こんなガキ一人にあんな会議いらねーと思って寝てたわ」

『……はぁ、まぁいっか。いやよくないけど!

目覚めたんなら一旦帰ってきな』

「はぁ?これからが楽しいのになんでたよ!」

『……ほんとに聞いてないんだね』

「あぁ?」

『いいから帰ってこい!これは命令だよ!』

「はぁ?まじかよ。クッソこれからだってのに。」

『いい?早く帰ってくるんだよ!』

「わかったわかった。すぐに帰還しますよ『ピッ』

はぁ、仕方ねぇか」


 男の会話が終わったようだ。話している間、私の体は動かなかった。


『是、相手の会話を聞き情報を求めるため動きませんでした』


 情報?そんなのどうでもいいからあの男を殺してよ。


『了、これより殺害にうつります』


 また、私の中の何かが膨れ上がった。


「ん?おお、やる気まんまんだな。しかし俺は帰らなきゃいけないんでここは引かせてもらう」


 男は「ソニックムーブ」と呟き、私から距離を取り始めた。


「追って!」

『了、追跡モードに移行します』


 私の体からは想像もできないほどのスピードで男を追い始めた。


「はぁ?まじかよ!これに追いつくってどんだけ

俺を殺したいんだよ。好きかよ俺のこと!

おいお前ら、足止めしやがれ!」


 男が叫ぶと周りの家から男と似た格好をした人たちが飛び出してきた。

 身長は様々だが全員体格がよく、集まると私が

ちっぽけに見える。


「じゃまするなら全員殺す!」

『了、殺戮を開始します。魔法シャドウランスを使用』


 声がそう言うと前にいる邪魔者の影が動き、次々と串刺しにしていく。


「わぁーお、おっかねーな。まぁ今のうちに逃げさせてもらうとするか!」


 男はよりスピードを上げて逃げていく。


「追いかけろ!」

『了、邪魔者が多いため魔法ミストシャドウを使用』


 魔法が発動すると、あたりが黒霧に包まれていく。そして私の体が走り出した。


『これにより妨害を受けないと仮定し、対象の追跡を実行。魔法シャドウハントを使用』


 私の影が周りの影の中に入っていく。それからしばらくして、


『告、対象を発見。魔法シャドウワープを使用』


 体が影の中に沈み込んでいく。次の瞬間には目の前に男が屋根の上を走っていた。


「見つけた!」

「はぁ!まじかよ、どうなってんだ!」


 私は男に向かって走り出す!





◇◆◇



世界


この世界は魔物や覚醒者がいるだけの普通の世界です。ですが、魔物によって国がなくなることがよく起き人類は減少状態になっています。

今の人類は約50億人まで減っており、今も数を減らしています。

日本は魔物などに対して知識が豊富な点や国民の一致団結が早く済んだことにより被害は最小限で抑えられている。

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