閑話 歩かされた死体事件 ~犯人視点~
閑話 歩かされた死体事件 ~犯人視点~
こ、殺してしまったっす……!
今日まで善良に生きてきたローエン・イオニア――つまり自分は、とうとうこの手を血に染めてしまったんすよ!
けれど、それは仕方がないことだったんす。
だって目の前で唯一の友達だったアゼルジャンが、ミズニーのクソ野郎に殺されちまったんすから。
アゼルは、ある日突然この鉱山へやってきたっす。
ゴーレム技師ってことで、一緒に仕事をして、あいつは気さくなやつだからすぐにみんなと打ち解けて、自分たちはたくさんの話をしたっす。
語り合った時間は短くても、自分たちは友達……いや、
だからこそ、余計にミズニーが許せなくて。
気付いたら殴り殺してたんすよね……。
まあ、やっちまったものは仕方ねぇっす。
で、問題なのが視察に来ている連中。
仲間達ならミズニーが死んでも誤魔化すのに付き合ってくれるかもしれないっすけど、モーガンやあの恐い顔の貴族なんて絶対許してくれないに決まってるっす。
自分が捕まってしまったら、仲間達はどうなるっすか?
モーガンが監督官を引き継いで、今以上に圧政が敷かれちまうんじゃ?
そう考えたら、腹を決めるしかないって思えたっす。
ふたりの死の責任をモーガンに着せる。
それしかないって!
とりあえず、ミズニーの死体をどう隠蔽するかっすが……。
こんなのどう隠したって目立つっすからね。
よし、一旦破損したゴーレムの中へ押し込んでおくっす。
次に、アゼルの遺体を自殺したみたいに偽装するっす。
ミズニーが使ってたナイフを再利用して、殺されたのか自殺なのか解らない感じに細工。
これは、正直なところ偽装だってバレてくれなきゃ困るっす。
じゃないと、罪をモーガンに着せられないっすからね。
そのためにも、絶対言い逃れ出来ないような手段でやつを罠にはめるしかないんすけど……一介のゴーレム技師がそんなトリック、瞬時に思いつけるわけないっす。
でもでもこれは、仲間のため。
親友アゼルの死を無駄にはしないためにも。
うぉおおおおお! 考えろ自分……!
――ひ、閃いたっす!
アゼルがミズニーを、不正にたえかねて殺した。
と見せかけて、ミズニーが現場から逃げ出したってことにすれば、絶対にモーガンが疑われるはずっす。
だって、二人が争った
そうなったとき、死体を自由に動かせたのは死霊術士しかいないってなるはずっす。
え? すごくないっすか?
これを瞬時に思いつく自分、他の職場でも働けたのでは?
……なんて調子に乗ってたら、問題に直面っす
どうやって死体を遠くへ捨てるか。この場にあると非常に困るんすよね。ナントカして処分しなきゃいけないんすけど……。
うーん、遠くへ捨てる。
廃棄。
――廃棄ゴーレム……!
生きてきた、日頃の行いが生きてきたっすよ。
まさか、死体を隠すために使っていたゴーレムが再利用出来るなんて……間違いないっす、いま完全に天が自分に味方してるっす!
あとは足りない土を他のゴーレムからかき集めて……ダメだ。
さすがにちょっと足りないっす。
これじゃあミズニーを抱えて走れないから、えっと、なんとかするには……うーん……うーん……ゴーレムの構成要素は死者の魔力を吸った土だから……。
待つっすよ?
……ミズニーに、自分で自分を運んでもらえば解決なんじゃないっすか?
そうっすよ、これまで散々仲間達を、死後ですら酷使してきたんす。
今後は自分が働かされる番! 皮肉が効いててこれしかないって思えたっす!
ということで、ゴーレムの
一回もやったことがない術式っすが……なんとかなれー!
なった! 完璧!
自分、つきまくってるっす。
あとはゴーレムを自走させて――ダメだ、走ったらミズニーの身体バキボキになっちゃうっす!?
それ自体はぜんぜん罰って感じで許容範囲すけど、遺体が発見されたとき絶対不審がられるっすよね。
ぐぐぐ、やはり無理なんすかね?
どこにでもいるありふれたゴーレム技師には、これ以上の発想の飛躍は――飛躍? ジャンプ? フライアウェイ!
つまり、崖から飛び降りれば、骨折しててもバレないのでは!?
よし、あとは指示式を書き込んで、最後にゴーレムが自壊するようにすれば……完璧、
これで事件が発覚したタイミングでモーガンに容疑を集中するように仕向けてやれば、万事が上手くいくはず。
もしかしたら鉱山の待遇もよくなるかも?
これは完全犯罪の実現っすね。
そう、よほどの名探偵でも現れなければ!
――で、現れちゃったんすよねー。
最後の切り札として取っておいたゴーレムの襲撃も、あのお貴族さま……辺境伯様だったんすよね……に一刀両断されて、この通り逮捕されたわけっす。
え?
どうすれば、あの黒い女に勝てたか、っすか?
勝つとか負けるとか、ちょっとよくわかんないんすけど……。
たとえば、名探偵を先に殺しちまえば、
ははは……。
平凡なゴーレム技師には、その程度しか思いつかないっすよ。
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