第34話 唐突に体の中へ入り込む
大きな赤い満月が、太陽のように燦燦と輝いている。見渡す限り草木も建物もない地平線が永遠に続き、地面は赤い月の光が反射して真っ赤に輝いている。ここは先ほど訪れた
(纏ちゃん、ここはどこなんだ?)
(ここは
(嘘だろ?)
(本当よ。生命源のパーセンテージによって暗黒球の世界観は変わるのよ。すぐに異世界ブラックボックスで確認したら、晴天の生命源が18%になっていたわ。思っていたよりも生命源が少なくてよかったわ)
晴天は絵梨花にごっくんしてもらっていたので、生命源は減っていた。
(生命源のパーセンテージで暗黒球の構造が変わるということだな)
(そういうことね。でも、それだけではないわ)
(そのようだな)
俺は纏の言葉にすぐに納得する。
(これだけ大きいゴキブリだと、気持ち悪いを通り越してカッコいいかもな)
俺たちより少し離れた場所に赤黒い体長10mほどのゴキブリの姿をした晴天が仁王立ちしている。6つの足は体の大きさに比べては細いが、イバラのようなトゲが無数に生えていた。4つの足を地面につけて、残りの2つ足は腕組みをしているように見える。その姿はゴキブリというよりも恐竜に近いだろう。
頭の2本の触覚には大きな目がついていて、俺たちの存在を認識したようだ。
俺たちに気付いた晴天ゴキブリは、4足歩行で走り出す。その動きはまさにゴキブリであり、かなりのスピードだ。
「キャッ、気持ちわるいわ」
纏は声を出して気持ち悪がり、大きくサイドにジャンプして、晴天ゴキブリを避ける。
「おっぱいだ。おっぱいがあるぞー。このおっぱいは俺のだぁー」
(纏ちゃん、大丈夫か)
(問題ないわ。でも、気持ち悪くて鳥肌が立ってしまったわ)
ゴキブリが気持ち悪いのは異世界人も同じであった。
(俺のおっぱいだぁー)
晴天ゴキブリはカサカサと音を立てて纏を追いかける。
(あんこちゃん、これを使って退治するのよ)
纏は爪とぎ板を俺に投げつけた。
(また、俺は一万円を支払わないといけないのか)
(当たり前よ。あんこちゃん、早く
纏は顔を青くしながら、晴天ゴキブリから逃げる。しかし、晴天ゴキブリはしつこいほどに纏を追いかける。
(あんこちゃん、早く、早く)
纏は必死に叫ぶ。よほど晴天ゴキブリが気持ち悪いのだろう。
(纏ちゃん、今回こそはまともな報酬をもらえるのだろうな!)
俺は纏に念を押す。
(ちゃんとあげるから早く倒してよぉ〜)
(わかった。わかった。すぐに爪を研いで変異核を潰せば良いのだろ)
(そうよ、早くして)
俺は纏に渡された爪とぎ板で爪を研ぐ。すると、前回と同じく爪が輝きだして、体全体に不思議な力が湧いてきた。
(晴天ゴキブリ、覚悟しろ)
晴天ゴキブリは俺の気配を察知したのか、纏を追いかけるのをやめて俺の方を見る。そして、触覚のような目をパチクリとさせて口元から黄色い汁がこぼれ落ちてきた。
「こんなところに餌があるぞー」
地球ではゴキブリの方が猫の餌であるが、暗黒球では立場が逆転しているのだろう。
(纏ちゃん、暗黒生命体にも食欲はあるのか?)
(暗黒生命体は欲の塊だから、食欲も当然あるわね。食べられないように気をつけてね)
晴天ゴキブリは6足歩行に切り替えて地を這うように駆け出した。これは本気で俺を食べる気だ。
(あんこちゃん、変異核の位置を確認して、体ごと晴天ゴキブリに突っ込むなよ)
瞬きもしないうちに晴天ゴキブリは俺の目の前にいた。俺はこのままでは食べられてしまうと恐怖して体が硬直して動けない。そもそも俺は好戦的な正確ではない。むしろ気弱な性格だからいじめられていた。そんな俺が恐怖を目の前にしてできることと言えば、目を瞑って恐怖から逃げることだけだ。俺は体を丸くして目を瞑る。
(あんこちゃ~~~ん)
俺の脳に纏の声が響いた時、俺の体は晴天ゴキブリの中にいた。幸いだったのは、晴天ゴキブリにかみ砕かれるのではなく飲み込まれたことだった。俺は晴天ゴキブリに飲み込まれて胃袋まで流し込まれる。胃袋には黄色の液体が溢れていて、俺は黄色の液体の中へ落下する。この黄色の液体は口元から垂れていた液体と同じである。即効性はないがじわりじわりと俺の体を溶かす液体であった。
「にゃーーーーー、にゃーーーー」
俺は痛みで悲鳴を上げた。
異世界美少女ハンターと猫になった少年が世界を救う?~この世界はいつの間にか暗黒生命体に支配されていた~ にんじん太郎 @ninjinmazui
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