第7話 唐突に俺は特殊能力が備わっていた

 (寝る前にシャワーを浴びようかな。あんこちゃんも一緒に入る?)



 まといは唐突に魔法着を脱いで全裸になる。綿菓子のように白くフワフワの肌があらわになり、俺は顔を真っ赤にして視線を床に向ける。



 (あんこちゃん?どうしたの?)



 おそらく纏は全裸のままでしゃがみ込み俺の頭(猫の頭)を軽く触る。今俺が顔を上げれば、纏の大事な部分がもろだしになっていてご対面してしまうだろう。動画でなら見たことがある秘密の園が目前にある。少し首を傾かせるだけで見ることができるのだ。



 (俺は入らないぞ。猫はお風呂が苦手なんだ!)



 破廉恥よりも羞恥心の方が勝ってしまい、声を荒げながら断ってしまった。



 (そうなの?残念ね)



 纏は立ち上がりお風呂場に向かった。俺は纏の気配が薄れたのを感じると首を上げてみた。すると、紅潮した大きなお尻を左右に振りながら、艶めかしく歩く後ろ姿に俺は目を奪われた。もし次に誘われることがあれば、一緒にお風呂へ入ると心に誓うのだった。

 雨音のようにシャワーの音が部屋に響き渡り、俺の五感はすべてそこに集中してしまう。いろいろと気になることがあったはずなのに、それを全て忘れさせてくれるモノがそこにはあるのだ。微々たる音も聞き残さずに、纏がどこを洗っているのか妄想するだけで俺は至福の笑みを浮かべる。今はそれだけで俺は満足している。妄想に勝るエロはないのであった。

 十分に妄想を堪能した頃、柑橘系の匂いを漂わせて纏は風呂から出てきたのである。体にはぴったりとまとわりつく白のバスローブははおり、しゃがむと思わず飛び出しそうな胸の谷間が見える。



 (あんこちゃん、一緒に寝ましょ)

 (……)



 俺は緊張して背筋をピンと張り何も言葉が出ない。そんな俺に気を止めることなく、纏は硬直した俺を優しく抱え込みシングルベットに運び込んだ。


 

 (今日はいろいろと疲れたわね。おやすみ、あんこちゃん)



 纏は俺を胸の谷間にしまい込むと素敵な寝顔を見せつけながら眠りにつく。



 そして、朝が来る。



 (あんこちゃん、起きて)



 暖かくてやわらかい大きな胸に挟まれて、興奮してすぐには眠れないと思っていたが、暖かい温もりは俺の不安を癒し、弾力ある大きな胸は心地よい眠りに誘い込んでくれた。結局俺はすぐに眠りについていた。



 (あんこちゃん起きてぇ〜)



 小鳥のさえずりのような甘く優しい声が俺を目覚めさしてくれる。




 「ニャ〜」



 俺は目を覚ますと、自分自身が猫であることに気づく。昨日の出来事が全て夢であったら良かったのにと思う。




 (あんこちゃん、おはよう)



 纏の可愛い笑顔を見て、そんな気持ちも一瞬で吹き飛ばされてしまった。



 (お……はよう)



 俺は纏の姿を見て時が止まったかのように凍り付く。


 

 (それは俺の学校の制服じゃないのか?)



 昨日纏はファンタジー世界で定番の魔法着を着ていたが、今日は一転して紺のブレザーに、膝見える丈の短めのチェック柄のプリーツスカートを着ている。



 (あんこちゃんが生きていれば同じ高校だったのね!そんなことよりも、ご飯を食べたらさっそくハンターの仕事に行くわよ)



 部屋にある小さなブルーのテーブルに、こんがりと焼けたトーストにイチゴジャムがこんもりと乗せられていた。それを美味しそうに纏は頬張る。俺にも同じトーストが用意されていてホッと心をなでおろした。以前は人間だった俺がキャットフードを食べるのは少し抵抗があるからだ。猫の手で上手にトーストを掴むのは不可能だったので、少しマナーが悪いかもしれないが、口でパンを咥えて食べることにした。



 (美味しい)



 猫の味覚は甘味を感じることができないと聞いていたが、ジャムの濃厚な甘味を感じることができて嬉しかった。体は猫であるが味覚は人間と同じであることに俺は感謝した。



 (あんこちゃん、言い忘れていたけど、名付けしたので特殊な能力を得ることができたのよ。味覚の変化はおまけ程度の能力だけど、実戦で役に立つ素晴らしい能力を得てるのでハンターのお仕事をがんばってね)



 纏は俺が美味しいと嬉しそうに話すのを聞いて、俺の疑問に答えてくれたのであろう。しかし、特殊な能力とは非常に気になることである。



 (纏ちゃん、俺はどんな特殊能力を得たのだ?)

 (それも実戦で説明したほうがわかりやすいかもね。ご飯を食べ終えたらさっそくハントするわよ)



 ゲームで例えるならば、これからチュートリアルが始まるのであろう。説明書を読むよりもわかりやすく覚えやすいから嬉しい方法だ。



 (あんこちゃん、ちょっと待ってね)



 纏はスマホのようなモノを取り出して画面をじっくりと眺める。



 (早急の依頼が届いているわ)

 (纏ちゃん、前から気になっていたけど何を見ているのだ)


 (これは異世界ハンターボックス。略してスマホよ)

 (いや、全然略せてないのだが……)


 (日本国風に略したってことなの!)



 纏はタコのように顔を真っ赤に染めながら頬を膨らませる。それはとても可愛らしい顔だ。



 (そういうことか)

 (そうなのよ。そうだわ、近くに丁度良い依頼が届いたからすぐに急行するわね)



 纏は玄関の扉を開けて外に飛び出した。俺はその姿を見て思わず声をかける。



 (纏ちゃん、スマホを使って移動しないのか?)



 昨日はスマホを使ってこの部屋まで転送した。行き先がわかっているならスマホを使えば楽チンに移動ができるはずだ。



 (いい忘れたけど、スマホの転送機能を使うには料金が発生するのよ!月に1回はサービスとして無料で使えるので昨日は使ったの)

 (そういうことなのか……)



 月に1度しか使えないのならもっと大事な時に使えば良いのにと俺は思った。


 

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