第6話 唐突に俺の借金が増えていた
俺は猫ができる仕事を考えてみた。すると背筋が凍るほどの恐ろしいことに気づいてしまった。今の時代の猫はペットとして癒しを与えてくれる家族のような存在として飼われているが、本来は害虫を駆除してくれるお掃除番長である。例えば家に住み着くネズミやゴキブリなどをエサとして食べて駆除する役割を担っていた。
(無理だ!ネズミやゴキブリなんて食べられない。頼むから勘弁してくれ)
俺は命乞いをするように涙を流して訴える。
(そんなことしなくても良いのよ。私のハンターとしての仕事を手伝ってくれればよいの)
(えっ!ネズミやゴキブリをハントするのではないのか?)
俺は恐る恐る聞いてみる。
(ちがうわよ。私のハントする対象はズバリ……
(新人間?何ですかそれは)
新人間とは何を意味するのか理解できない。
(説明するよりも経験した方が理解しやすいわ。さっそく明日から新人間をハントするから手伝ってね)
百聞は一見に如かずである。
(わかった)
俺は従うしか道はないのだろう。
(これで私たちは良きパートナーね。これからは私のことは
黒猫だからあんこと名付けたのだろう。俺にはきちんとした名前があるのだが、猫の名前としてはあんこの方が妥当であろう。
(好きにしてくれ)
俺はぶっきらぼうに返事をした。
(じゃぁ、今から私のお家に案内するわね。でも、その前にあんこちゃんの死体を処理するね)
(もしもし、こちら異世界ハンター協会日本国担当の新米ハンターの纏です。時空の歪みにより転移位置がズレてしまい、日本人男性が1名死亡しました。異世界協定法にのっとり救護活動をおこない男性の魂を猫に入れ替えをしました。将来、本人が蘇生を望む可能性を考慮して遺体の回収を依頼します。座標位置は〇〇××△〇△ですのでお願いします)
纏は俺が蘇生できるように遺体を回収するように手配してくれたようだ。俺は借金のことばかりに気を取られて、肝心のことを忘れていた。俺は人間として蘇る可能性があるのだ。そう思うと、嬉しくなり喜びの涙が込み上げてきた。
(纏ちゃん、ありがとう)
俺は素直にお礼を述べた。
(あっ!またまた言い忘れたけど死体の修復費用は5億円で、死体の保管費用は1日1万円になると思うわ)
(そんなにもかかるのか?)
修復費用が莫大で見過ごしてしまうが、保管料の1日1万円も相当高い。
(無理なら廃棄処分になるけどどうする?)
出来ることなら人間に戻りたい。でも俺は支払うことができるのだろうか?
(どんな仕事をしてでも俺は人間に戻りたい。だから、遺体を保管してくれ)
纏はハンターの手伝いをすれば、総額10億円を超える借金を俺が支払えると判断したから、俺を猫にして遺体も回収したはずだ。どんな困難が待ち受けているかわからないが俺はやるしかないのだ。
(そう言うと思っていたのよ。あんこちゃんはこれ以上借金をすることはできないので、私が代わりに借金をしてあげたわ。もちろん、利子はきちんと頂くわね)
(……はい)
俺は怖くて利子の話しを聞くことはできなかった。纏が悪徳金融でないことを願うしかなかった。
(さぁ家に帰るわよ)
纏はさきほどのスマホのような透明の物体を出す。
(地図を開いて目的地を選択ね)
纏はぶつぶつと独り言を呟きながらスマホのようなものをタッチする。
(あんこちゃん、しっかり私にしがみついていてね)
(はい)
俺は纏のスイカに挟まれたままだったので、許可を得たのでスイカにむさぼりつくようにしがみついた。すると、七色の渦が発生して纏を包み込んだ。
(ここが私の家よ)
七色の渦に包まれた瞬間、視界がテレビの砂嵐のようになったが、すぐに視界は良好になり、古びたアパートのような一室に辿り着いていた。間取りは8畳の1Kで、お世辞にも綺麗な部屋と言い難く、味のある古びた部屋と表現するのが精一杯だろう。
(風情のあるところだな)
(ぶぅ~~~~~~)
纏は頬を膨らませてフグのような顔をする。
(年季のある古風な部屋だな)
(どうせ築60年の安アパートですよ!でも、あんこちゃん以上に借金がある私には選択肢がなかったのよぉ~~~~)
(えっ!纏ちゃんも借金があるのか?)
(そうなのよ。異世界ハンターになるにはいろいろとお金がかかるの。でも、もう大丈夫。私は日本国でたくさんハントして大金持ちになるの)
纏には壮大な目標があったようだ。
(借金がるのに俺の借金まで肩代わりしてくれたのか……)
(そうね。責任は取らないけど、あんこちゃんには悪いことをしたと思っているの。だから私にできることはするつもりよ。それに異世界ハンター証はとても価値がありあらゆることで優遇されるのよ)
悪魔のように思えた纏だが、実際は天使のような心も持ち合わせていたのだと実感した。
(ありがとう)
俺は心から感謝の意を述べる。
(気にしなくても良いのよ!たんまり利子をつけて返してもらうから、私としては感謝しているのよ)
纏の可愛らしい笑みはやっぱり悪魔の笑みであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます