第5話 唐突に俺は借金を背負うことになった

 (猫になったのよ!)



 愛くるしい笑顔で美少女パンティーは答えるがそれはわかっている。どうして猫になったのかを知りたいのである。



 (猫になったのはわかっている。でも、どうして猫になったのか知りたいのだ)



 美少女パンティーは真剣な表情で俺の目を(猫の目)をジッと見つめる。水晶のごとく透明な銀色の瞳に黒猫の姿が投影される。美少女に見つめられることのない人生を送ってきた俺の顔(猫の顔)は、恥ずかしくて押しつぶされた紙のようにしわくちゃになる。



 (可愛い・・・)



 美少女パンティーの真剣な表情は直ぐに崩れ落ち、頬を緩めて天使のような笑みを浮かべる。そして、両手を差し出して俺の(猫の)両脇に片手を入れて上半身を持ち上げると、もう片方の手でお尻をしっかりと支えて抱き上げた。俺の体は大きなスイカに挟まれるように美少女パンティーの胸元に収まった。



 (ごめんね。可愛すぎてつい抱きしめちゃった)

 


 フワフワの大きなスイカに体を挟まれた俺に怒る理由は見つからない。むしろご褒美だった。



 (抱きしめたまま説明しても良いかしら)

 (は・・・い)


 

 断る理由などなかった。むしろこの姿勢を崩さないでくれとお願いしたい。



 (まずはあなたが猫になった経緯を説明するね。私はとある依頼を受けて、日本に転移した新米ハンターの黒揚羽くろあげは まとい。転移魔法で日本に送り込まれたけれど、時空の歪みに巻き込まれて、転移ポイントがズレてしまいあなたの頭上に不時着したみたいなの。その結果、あなたはバランスを崩して、屋上から誤って転落して死んじゃったわ。蘇生魔法は上級ハンターでも使えない高難易度魔法、でも私は新米ハンターでもできる子なので、蘇生の代わりに魂の入れ替えをして無事にあなたを救ってみせたのよ)



 美少女パンティーは得意げな表情で俺を見る。

 美少女パンティーから聞かされた内容は、到底理解できる範疇のものではない。転移?蘇生?魂の入れ替え?そのような技術は日本どころか世界中どこを探しても存在しない。しかし、猫の姿をしていることを受け入れれば、美少女パンティーが言っていることは嘘ではないのだろう。



 (俺は一生この姿のままなのか?)



 猫になった経緯は理解した。そして次に知りたいのはこれだ。俺はこのまま猫として生きていかなければいけないのかだ。



 (それはあなた次第だわ)

 (それは一体どういう意味なんだ)



 美少女パンティーの言っている意味がわからず、俺は少し声を荒げてしまった。



 (単刀直入に言うわ。元の姿に蘇生するには莫大な費用がかかるのよ。多額の借金があるあなたでは、これ以上の借金をすることはできないのよ)

 (ちょっと待て、蘇生するにはお金がかかるのは理解した。だが、俺は借金など1円もないぞ)


 

 俺は普通の高校2年生、借金などしたことなど一度もない。



 (ごめんね。ちゃんと説明してなかったけど、魂を猫に入れ替える料金として5億円かかるのよ)



 美少女パンティーの天使のような笑みが不気味な笑みに見えてきた。



 (ふざけるなぁ~~~~~。俺は猫にしてくれと頼んではいないぞ)



 もちろん理不尽な請求に俺は激怒した。そもそも、美少女パンティーのせいで俺は死んだのだ。勝手に猫に魂を移動させておいて、5億円も請求するなんて詐欺どころではない。



 (すぐに魂を移動させないと、生き返るチャンスを無くしてしまうのよ。5億円を支払いたくないのなら・・・死んじゃう?)



 美少女パンティーはいとも簡単に死の宣告をした。一度は死を覚悟した俺だが死にたくはない。



 (ちょっと待ってくれ。事情は理解できたが、そもそも急に美少女パン・・・じゃなくて、まといさんが空から降ってきたから俺は死んだのだろ?俺が死んだ原因は纏さんの不注意によるものだから、俺が5億円を支払う義務はないはずだ!)



 俺は至って正論をぶちかます。



 (はぁ~。これだから素人は困るのよ。異世界協定法125条に記載されているのですが、転移魔法による事故は転移者及び転移魔法を発動した者は一切の責任を問われないとなっているの。だから、私は何も悪くないのです)

 (そんなの嘘だ。そんな法律は聞いたことないぞ)


 (知らないのは当然ですよ。異世界協定法はごく一部の関係者しか知ることはできないのです。あなたは幸運にも異世界協定法を知ることができた稀有な存在になりました)



 美少女パンティーは両手を叩いて俺を祝ってくれた・・・が全く嬉しくもない。仮に美少女パンティーの話しが本当なら俺は5億円の借金を背負ったことになる・・・って、そもそも猫の俺に支払い能力はあるのだろかと疑問が浮かび上がる。



 (わかった。でも猫の俺が5億円なんて支払えるわけがないだろ?)



 これは完全に正論だ。美少女パンティーも返答に困るはずだ。


 (大丈夫よ。私のパートナーとして5億円分の仕事をしてもらうつもりなの)



 優しく笑みを浮かべる美少女パンティーの姿は、もはや天使ではなく悪魔であった。



 


 



 






 

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