第3話

 僕が通う平々凡々な高校の、これまた平凡な制服は紺色のブラザーに白のワイシャツ、緑色のネクタイにブレザーと同色のパンツ。

 つまりとても目立たない、これといった特徴も無い制服だ。

 その中にあって目立つ人間というものは数人存在する。

 

 例えばジャージを着ている教師がいる。

 白衣を着ている養護教諭と化学の担当教師、あとは学校中で大人気の地毛がブロンドのハーフの子。

 

 しかし今日に限っては一番目立っていたのはその中のいずれの人でもなく、たった一人の生徒だった。

 白と黒を基調とした、軍服に似ている豪奢な制服を着用した銀髪のショートカットの少女。

 明らかに他校の制服、他校の生徒であり、そしてそれはとても有名な学校の物だった。


 加えて言うなら彼女自身もとても有名人だ。

 それ故に彼女を囲うように出来た人の輪のせいで更に目立っている。


「……いた」


 まだ50メートル以上は離れているはずだが、その子はほんの一瞬僕と目が合っただけで、この特徴の無い人の中から僕を見つけ出した。

 その事に対して特に驚きはない。

 彼女が僕を探していた事についても驚くことはない。

 

 明らかにこっちに向かって歩いてくるので、その場にいた全ての人間の視線が、彼女の向かう先に向いている。

 つまり僕の方を見ているわけで、僕としてはあまり目立ちたくない。

 仕方が無いので踵を返してあまり広くない、人通りもない小道に入る。

 何人かこちらを見ていたのでさらに奥の裏路地に入って立ち止まった。


「待ちなさい。ってあれ、待ってた」


 追ってきていた目立つ少女が、待ち構えていた僕を見て立ち止まった。


「貴方が禅理ぜんり 亰波みやは君よね?」

 

 どうやら僕についての調べはついているらしい。

 

「そういう君は一音ヒトネ 真理マリさんで間違いないかな?」

 

 まぁ、こちらとしても調べはついているので、そこについては対等といえる。

 

「自己紹介が必要無さそうでよかった。私が誰か分かっているなら要件も分かるでしょう?」


 そう言う一音さんの制服の胸元には目立つバッジが付いている。

 国家に認められた異能持ちが強制的につけなければならない物だ。

 国に異能者として登録されるとかならずこのバッジが配布される。

 そしてそのバッジは僕の制服にはついていない。

 

「禅理君、貴方に異能不申告の容疑が掛かっています」

「まぁ、そうでしょうね」


 要件は分かっていた。

 やはり決定的となったのは先日のビルでの爆破事件だろう。

 それがなくてもここ数年は既にマークされていたようだったけれど。


「異能不申告は立派な犯罪なの。今は国としても様々な事情であまり事を荒立てたくないから、逮捕状はまだ出ていないし、警察も動いていないけど」


「今の状況で国家権力による未犯罪の異能者不申告者の強制逮捕なんて、またテロが起きかねないですしね」


 僕の言葉に一音さんが眉を顰める。

 どうやらあまり的外れでは無いらしい。

 それに僕の異能についても多少予測はついているようなので、有用性も考えれば他国や国内の反国家団体に僕の情報は漏らしたくないだろう。


「だから出来ることなら私は平和的に貴方を連れて行きたいの。協力してくれるかしら?」

「まぁ、僕としては最初からそのつもりでしたからね」


 そう言いながら両手を差し出すと、一音さんは少し微笑んで、制服の内側から取り出した厚めの白く頑丈な手錠を僕の手に掛けた。


 

 

 



  



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僕等は奇跡の船中に @himagari

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