第2話
春眠暁を覚えずとはよく言ったもので、春の朝はいつまでも眠っていたい。
けれど一学生としては早起きが基本なので平日の惰眠は許されない。
社会人になっても同じ事なのだろうけど。
テレビをつけると昨日から何度も繰り返されるニュースが流れていた。
『–––被害にあったビルは全焼しましたが、怪我人は現在も確認されていないとの事です。異能犯罪者取締り協会は、反異能管理過激派グループによる犯行と見て捜査を進めています』
映像は轟々と燃え、時折爆発する衝撃的なビルが映し出されていた。
こうしたニュースは珍しくなく、月に一度はこのような事件が起きる。
10年ほど前から異能に関する規制が強まっていたが、3年前に異能管理義務法令が施行されてからはこういう事件が爆発的に増えたように思う。
異能待ちにとってこの法令は自分たちの自由を奪われる物でしかない。
異能不申告者も増え続けている。
『次のニュースです。あの人気異能アイドル、
異能異能異能。
朝から鬱になりそうなほど流れる聞きたくもない言葉の羅列。
耳障りに思えてきたのでテレビを消して、焼けたトーストを齧りながらバッグを持ち、荷物が少なくなった家を出た。
朝の陽気は心地よいけれど、いかんせん筋肉痛の足が痛む。
どうしようもないと言うほどではないが、歩くたびに地味な痛みが歩幅を短くする。
そんな中一瞬の頭痛とともに、この先の通学路が事故で封鎖されている光景が脳裏によぎった。
「ついてないなぁ」
こんな日に限ってと思いながらも道を変えながら学校を目指す。
しばらく歩くと他にも同じ学校を目指す、同じ制服を着た生徒達が数人見えてきた。
「あの子か」
見覚えのある道の中で、横断歩道で待つ一人の女子生徒を見つけた。
全く面識はない子で名前もクラスも知らないが、僕はこの子を知っている。
スマホを弄りながら信号が変わったのを確認したその子が横断歩道を渡ろうとする。
その肩に手を置いて後ろに引っ張った。
「えっ!?」
突然背後から肩を引かれた事に驚きの声をあげていたが、その理由が問いただされる事はない。
僕が肩を引っ張った直後に信号無視の車が僕たちの前を横切ったからだ。
突然の事に息を呑んだその子はへたり込むようにその場に座り込んでしまう。
「あっ、えっ、嘘っ」
僕達の様子に気がついた周りの生徒がざわつき始める。
信号無視の車は止まることもなく走り去ってしまったので文句の言いようもない。
「こんなところで座ってたら危ないよ」
「あ、あっ、はい」
僕の手を取って立ち上がった女子と横断歩道を渡る。
渡り終わったら何を言うこともなく手を離して、また学校に向かって歩き始めた。
背後で立ち尽くす彼女が何かを言おうとしている気配を感じた。
しかしどうせ今日までの関係なので、立ち止まる事もなく無視してこの学校への最後の登校を終えた。
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