僕等は奇跡の船中に

@himagari

第1話

 爆ぜる高層ビル。

 高々と破裂音を撒き散らし、燃え盛る爆炎が青い空を染め上げた。


「派手にやりすぎでしょ」


 僕は必死に走り燃え盛るビルを目指す。

 距離はおよそ百メートルほど。

 爆発の中心であるビルから離れようとする民衆の波を遡る。


「クソ」

 

 必死に人を掻き分けて走り、辿り着いたビルのドアを開けて中に駆け込んだ。

 すでに人影のないエントランスを駆け抜けてエレベーターのボタンを押すが反応はない。

 おそらく先ほどから続く爆発で電気系統がダメになってしまったのだろう。


「階段か」


 悪態が口を吐くが今はそんな事に文句を言う暇も惜しい。

 階段の段差を二段飛ばしで駆け上がる。

 このビルの最上階は22階で、爆発があったのは18階。

 目的地はそれより少し下の16階だ。

 

「あぁ!きっつい」


 七階を超えた辺りで足が悲鳴を上げ始める。

 それでも手すりに捕まりながら上階を目指す。

 既に階層は12階。

 ここまできたとこで必死に上げた足が二段を登りきれず躓いてしまう。

 普段からあまり運動をしていなかったことが悔やまれるが、今はそれを嘆く時間などない。


「あと、少しっ」


 震える足を叩いて、駆け上がることはできなくとも二段づつ踏み越えるように階を上がる。

 息も絶え絶えになりながらたどり着いた16階を走り奥にあった一つの部屋へと駆け込んだ。

 

「居た」


 その部屋に一人蹲っていた女の子の姿を見つけて安堵の息を吐く。

 

「……誰?」


 啜り泣く少女は僕を見てそう尋ねた。

 

「誰でもないよ。少なくとも今はね。ほら、安全なところまで連れて行くから背中に乗って」


 そう言いながら小さな体を背中に乗せて今来たばかりの道を駆け戻る。


 16階から降った途端に背後から響く爆発音。


「時間ないなぁ」


 どうしようもないことに文句を言いながらまた手すりに捕まって必死に階段を駆け降りる。

 すると先程まで大人しかったのが嘘のように上階から爆発音が続く。

 背に迫る死の予感を振り払うように駆け降りた先にようやく出口が見えた。


「嘘だろ。って、マジかよ!」


 しかし悪いことは安堵とともに押し寄せる。

 閃光と共に炸裂音が響き渡り、エントランスの隅で爆発が起こった。

 凄まじい衝撃波と熱を近くにあった壁で受け流し、燃え盛るエントランスの端を駆け抜けて僕はようやく外へと辿り着いた。


「あーもう、休ませてくれよ!」


 飛び出した外で膝をつくと見えたこちらへ走ってくる数人の人影。

 背中に背負っていた少女を地面に下ろしてその人達から逃れるために僕は路地裏に駆け込んだ。




 


 


 

 

 

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